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クリエイターズメタバース

クリエイターズメタバース

Chapter 1
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Episode 1 1話「理想を求める若きファッションデザイナー・ラビ」
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by (天神七伎:著)
 【理想郷】という意味がある【XANA】、その名を付けられたメタバースの世界の中にファッションショップ街がある。  そこではアバターと呼ばれるユーザーの分身の衣装や小物など、身に着けるアイテムが販売されていた。  アバター本体は無料で制作できるが、着せ替えアイテムは有料で販売されているショップから買うユーザーが多い。  ファッションショップ街では様々なデザイナー達が、オリジナルの商品を販売している。  その中で、広場に面したアニマルデザインの店には、数多くのアバターが訪れていた。  店内ではウサギ耳にメイド服を着た愛らしい女の子が、せわしなく働いている。 『ありがとうございました! またいらしてくださいね♪』 『ラビさん、ありがとう♪ また来るね!』  購入した猫耳パーカーに着替え終えた女の子のアバターが、喜びの表情を浮かべながら店を出て行く。  店内で販売されているのは、アニマルをテーマにした着せ替えアイテムばかり。  可愛らしいものからセクシーなものまで、若い女性アバターをターゲットにした着せ替えアイテムは大好評で、デザイナー兼店長のラビこと月兎(つきと)弥生(やよい)は現実世界でも笑顔が絶えないほど営業は順調だ。 (専門学校ではわたしのデザインは奇抜過ぎるって言われてたけど、こういう世界なら大ウケすることが分かって良かったぁ。売上と評判が良ければ、XANAの着せ替えアイテム専属デザイナーに雇ってくれるって話だし、頑張らないと!)      元々動物が好きだった弥生は、身に着ける服や小物でも動物をテーマにしたものが多かった。  しかし万人受けするものではないことから、専門学校での評判はあまり良くない。  卒業の時期が迫る中、悩んでいる弥生に進路相談をしていた先生が、メタバースのことを知っているかと尋ねてきた。  友達から話には聞いていたものの実際にはやったことが無かった弥生だったが、その後の先生の話で一転する。…

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Chapter 1
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Episode 2 2話「理想を具現化したクリエイターズ・カラヴァッジョ」
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by (天神七伎:著)
(う~ん……。イベント広場っていろんな催し物や公演が多いから、話に聞いたのがどれなんだか……ん?) 『いらっしゃい! いらっしゃい! 幻想的な空間を体感したいのならば、我らカラヴァッジョの作品をご覧あれ! 今なら無料だよ♪』  まるでサーカス団のような建物の前に、これまた3頭身のピエロが軽く踊りながら宣伝をしている。  アバター達が続々建物に入って行く姿を見て、人気があることが分かった。 (お客様が言っていたグループだ。今後のデザインに何か良いヒントを得られるかもしれないわね)  無言で頷いたラビは、他のアバター達と同じく建物に足を踏み入れる。   中は真っ暗になっているものの、すぐにパアッと虹色の光が会場を包み込む。  音楽が鳴りはじまり、リズムに合わせて様々なデザインの3Dイラストの映像が現れては消えていく。 (コレは……スゴイっ!)  立っているだけなのに、映像が音楽と共に流れていくせいか、意識がこの世界に入り込んでいくのだ。  華やかな季節の花々に包まれたかと思いきや、次の瞬間には爽快感がある夏の青空の中を飛んでいる空間になる。 (3Dイラストを映像化して360度に広げれば、確かに幻想的な空間になるっ……! それに音楽に合わせることで、視覚と共に聴覚までも引き込まれる技がスゴイとし言い様がないわね。この発想と展開、普通の人じゃ思い付きもしないかも……。カラヴァッジョって一体、何者なの?)  音楽によって脳がリズムに揺られるたびに、刺激が常に与えられる。  激しいロックからアニソンみたいな曲まで、短く編集されているが繋げ方に違和感が無い。  そして時には歌声も含み、こういった世界に自分の全てが浸っている感覚になるのだ。  あっと言う間に時間は過ぎて、終わりになる。  建物から出たラビは、改めて先程の光景を思い返す。 (時間は5分程度だったけど、十分に満足できる体験だった……。ちょっと話を聞いてみたいな)…

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Chapter 1
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Episode 3 3話「理想と現実のはざまで……」
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by (天神七伎:著)
 その後、ラビの着せ替えアイテムを身に着けたアバター達が、カラヴァッジョが新たに制作した映像空間の中で活動する姿はあっと言う間に評判となり、ラビの店には数多くのアバターが買い物に来るようになった。  弥生はお客様を飽きさせないように、次から次へと着せ替えアイテムを制作していく。  今も現実世界の自分の部屋で、タブレット端末とペンを使って新作を描いている。 (繁盛するのは良い事だけど、今はあくまでも契約期間中。過ぎればお店は無くなるんだから、その前に頑張らないと! ……でも、何でテトさん達はインタビューを断るんだろう?)  SNSで評判になると、メディアから取材が申し込まれることが多くなった。  もちろんXANAの制作会社を通じて話がくるのだが、テトはその全てをラビに譲っている。 (もしかして就職難民だと言ったからかな? 変に気を使わせたのかも……)  だがテトはカラヴァッジョのクリエイター達は、素人だと言っていた。  あまり売れていないとも言っていたので、こういうふうに知名度が上がることは弥生同様にありがたいことのはずだ。 「……でも思い返すと、不思議なグループなんだよね」  弥生はふとスマホを手に取り、カラヴァッジョを検索するもクリエイターグループというのは出てこない。  結成したばかりだからかと思っていたが、それでも全く検索に出てこないのもおかしい。 「ん~、でもXANAで出会ったクリエイター達は、普通だったしなぁ」  ある程度キャラを演じているのだろうが、話は通じるし、意見も交わせる。  悩んでいてもしょうがないと思いつつ考えていると、不意にスマホが着信の音楽を流した。 「あれ? この番号って……」    …

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Chapter 1
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Episode 4 4話「カラヴァッジョの本当の姿とは……」
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by (天神七伎:著)
 数日後。電車とバスを乗り継ぎ、2時間以上かけて弥生は山の中にあるアトリエに訪れた。 「ここ……だよね?」  スマホの画面に映る地図には、間違いなくここだと表示されている。  アトリエの看板には、『障害者芸術文化支援事業 アトリエ・ミケ』とあった。  恐る恐るインターフォンを押すと、中から眼鏡をかけた温和そうな青年が出てきた。 「いらっしゃいませ。ラビさん」 「テトさん……ですか?」 「はい、そしてここの責任者でもあります」  中に通されると、広い部屋に絵を描いている男女が数人いたり、また音楽室では楽器を使って作曲をしている人もいる。  みんな夢中で真面目に作品作りに取り掛かっていた。  一通り案内された後、二人は応接室に入り、ガゼボの時のように向かい合って座る。 「見ての通り、ここは障害者が絵を描いたり、音楽を制作するアトリエです。XANAの制作会社の方から声をかけられましてね。作品をあちらの世界で公開することにしたんです」  コーヒーを飲みながら、思い返すように懐かしむ表情でテトは語り出した。 「制作会社からしてみれば、障害者の制作した絵や音楽が話題の一つとなると思ったのでしょう。我々もその思惑に乗った感じです。ある程度知名度が上がれば、今まで制作した作品が売れるのではないかと思いましたからね」 「じゃあ何故メディアから逃げるような形になったんですか? もしかして就職難民だったわたしに気を使ったんですか?」 「それも無いとは言い切れませんが……。やはり障害者であることを、ユーザー達には隠して公開しましたからね。今更そっちの話題で有名になるのは違うのではないかと思ったんです」  確かに最初から障害者であることを打ち明けていた場合と、有名になってから打ち明けた場合では、それを受け取る側の反応は違うだろう。 「もう二度と、ああいったイベントは行わないつもりですか?」…

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Chapter 1
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Episode 5 5話「理想はやがて、大きな野望へ」
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by 天神七伎
 それから数週間後。  弥生は正式にXANAで着せ替えアイテムの制作を依頼されて、しばらくログインできない日々を送っている。  家族や専門学校にも就職が決まったことを報告すると、大変喜ばれた。  専門学校を卒業するまではとりあえず、XANAの公式着せ替えアイテムショップに制作したアイテムを販売し続けることになった。  XANAで個人の店を持てるかどうかは、これからの努力次第だと言われている。  今日も部屋の中でたくさんのコスプレ雑誌と動物の写真集に目を通しながら、作業を続けていた。 「ううっ……! 納品日までは時間があるけど、早く終わらせて次に取り掛かりたいから頑張らないと……」  目の下にクマを作りながらも頑張る理由は数日前、スマホに送られてきた一通のメールにある。  送り主はカラヴァッジョのテトからで、内容はXANAで再びイベントをはじめる日が決まったとの知らせと、またラビとコラボイベントをしたいという依頼だった。  カラヴァッジョ復活イベントはSNSでも話題となり、ネットニュースにまでなったほどだ。  テトはどうやらそのイベントで、カラヴァッジョのクリエイターが障害者であることを打ち明けるらしい。  ネットでは荒れるかもしれないし、偏見や差別の言葉が出てくるかもしれない。  それでも彼らは、大きな一歩を踏み出す勇気を出すのだ。 「わたしも負けてらんないなぁ」  カラヴァッジョの作品は、見ている人に力を与えてくれる。  どんな困難でも自分の才能と努力で乗り越えたい――といった無言の意志はしかし、伝染力が強いのだ。 「全ての人々に感動を――ってのは難しいけれど、一部の人達の偏見や差別を思い浮かばせることができないぐらいの作品でねじ伏せるのは最高よね?」  ニヤッと笑った弥生は、新たな野望の為に今日も人々が喜ぶような着せ替えアイテムを創り続ける。…
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