目覚めてみたら、XANAマスターになっていた件

Episode 20 20話「挟撃の死闘」


前方のゴブリン、後方のスライム。

対応策を必死にめぐらす。

スライムのステータスを見る。

レベル1と2しかいないようだ。

攻撃は……噴射攻撃?

なんだそれは――だが射程は二となっている。

近接の射程が一という数値なので、槍ぐらいの射程のようだ。

ちなみにゆっきーさんの突き銛は射程二、投擲銛は三だ。

噴射攻撃の攻撃力も高くはなさそうだ。

しかし問題は数の多さだ――。

既にざっと三十体は超えているし、今も俺が落ちた穴から這い出てきている。

スライムの群れはそのまま斜路を下り、こちらへ届く寸前だ。

ミサキも後方に向き直った。

斜め上方にセットしたウォータージェネシスも同距離でついてくる。

セットした位置で追尾してくるのは便利だ。

「マスター、矢の残数二本です!」

二本だけ――!

おっと……それはまずい。

「ミサキとりあえず、牽制、足止めできないか?」

「分かりました、距離がないですが、散弾モードで氷結ショット撃ってみます」

「頼む――」

ミサキは弓を引き絞り、ウォータージェネシスに向けて矢を放つ。

スライムの前衛までは、距離が短いので集団の中央あたりで爆ぜた。

ダーツの矢のような氷の矢が無数に落ちる。

その矢に当たった四、五体が氷結していき、動かなくなった。

だが先頭のスライムたちは当然止まらない。

まもなく射程距離に来そうだ。

どうしたらいい――後方の盾役を誰かにさせるしかない。

ポヨーン、ポヨーン、ポヨーン、ポヨーン、ポヨーン――プシューウゥゥゥゥ!

「キャッ!」

スライム五体が、突然ホッピングして距離を詰め、何かを噴射した。

くそっ、見誤ったか、射程二じゃないじゃんか――!

「マミー!」

マミの前に横跳びし、慌ててかばおうとするがマミとセンちゃんに液体がかかってしまった。

「ワゥ―」

センちゃんはマミごと後方に飛び上がり、後退して、忠信君の背にぶちあたる。

「おょ」

忠信君は前に突っ伏しそうになったが、かろうじて手を地面について耐えた。

マミのHPは十パーセントほどになり、ステータス表示は真っ赤になっていた。

五体のスライムはマミを狙って集中攻撃したのだ。

ポヨーン、ポヨーン、ポヨーン、ポヨーン、ポヨーン――プシューウゥゥゥゥ!

さらに別の五体のスライムが襲い掛かってきた。

させるか――!

センちゃんがマミごと後退したので、俺はその前に立ちはだかることができた。

「あちっ」

焼けたような感覚が走るが、大した痛みではない。

どうやら酸のようなものを噴射されたようだ。

だが、五体の噴射を食らったのに、HPは十パーセントほどしか減っていない。

あれ――、俺平気じゃね?

「マスター!」

「マスター!」

「マスター!」

「殿!」

「よいたろうさん!」

ほぼ同時に心配する声が重なる。

「グゥワワワワ」

ズキューン! ズキューン!

俺の右手あたりで何かが叫び、閃光が二度放たれた。

えっ――!?

突然放たれた二度の閃光が、真っ直ぐスライムの群れに直撃した。

スライムの群れの中央に三メートルほどの空間が生まれる。

その間のスライムは消失し、床には焦げ跡がついていた。

俺の右腕が肩まで上がっていて、リアムアバターの手首から繋がれていた悪魔が、宙に浮いていた。

なるほど、こいつか、さっきのスライムからのダメージが少なかったのも、もしかして、こいつのおかげ?

「グゥワワワワ――、スライムごとき低級モンスターが、我に攻撃してくるなんざぁ、千年早いんじゃい! 見たかこのデビルズデーモン様のレーザービームを――!」

なるほど、こいつスライムに攻撃されて癪に触ったってわけか。

「お前やるじゃないか――! 凄いな、デビモン」

「なっ――! おいお前、人を、いや、悪魔をボゲモン扱いすな! 我は、上級モンスターぞ!」

「まあいいじゃないか、にしてもセクハラおじさんといい、ほんとにピンチの時にしか出てこないんだなお前たち」

「ぐっ、こやつ、我をセクハラおっさんと……。おい同等扱いすな! 何度も言わすな、ボケ! カス! 焼くぞボケ!」

「今のやつ凄いじゃん、もっとやってくれよ。スライム全部焼き払ってくれたら、ちゃんと呼んであげるからさ」

「もっ……」

「えっ、なんて言った? 聞き取れないけど」

「もう撃てんのじゃ――!」

「えっ、撃てない? なんで? どうして?」

「一日三発以上打つと、我の身体が溶けるんじゃ!」

「たったの三発で溶ける……虚神兵かよ……」

「うっ五月蠅い! そいつは、我を作りたもう主に言え!」

主? ああ、リアムンさんのことか……。

「カナ、少し外す」

「はい? マスター」

えっ、なに?

「うりゃー行けっ――!」

ゆっきーさんが、ダチョウを蹴ってスライムの方に走り出した。

デビモンが焼き払った道は既に狭まってきていたが、そこを勇猛果敢に突っ込んでいく。

「えっ、ゆっきーさん、どこへ!」

俺が落ちた穴の前で手綱を引き、ダチョウを急停止させようとするが、止まれずに少しオーバーランした。

――なるほどそうか!

ゆっきーさんは、アースジェネシスをセットし、どでかいサイコロのような土壁ブロックを空間に作り出した。

ドン――!

それがスライムの湧き出ている穴の上に落ちた。

「ナイスです、ゆっきーさん!」

ゆっきーさんは、俺の方を見て、サムズアップする。

超かっけー!

惚れてしまうやろー。

しかし退路はない。

既にスライムたちは焼き払われた空間を埋め尽くし、帰路は塞がれ、一部はゆっきーさんを攻撃対象にとらえている。

スライムたちは半分以下に減ってはいるものの、まだ三十体はいそうだ。

ゆっきーさんは、反転し距離を取りながら銛で突く。

こちらからも攻撃して、スライムたちを一掃しないとヤバい。

俺はバードだから武器は持てない。

唯一の攻撃方法は、魅了スキルで敵意を減らすことだが……レベル1でどこまで通用するか。

しかも対象とできるのは単体の相手になる。

マナが持つかどうか心配だが、ほかに方法はない。

レーザービームで一旦怯んでいたスライムたちは、またこちらにも向かってきている。

「スキル、魅了――!」

甘美なメロディーと、ハートのエフェクトが出た。

だがスライムはレジストした。

対象にしたレベル2のスライムに表示が浮かぶ。

いや頭の中に浮かんだのかもしれない。

「殿、レベル1のスライムだけに使ってくだされ。レベル2の者どもは拙者が切り捨てるでござる」

どうやらパーティーメンバーにも、スキル判定が見えているようだ。

ヒメミの方を確認すると、HP十パーセント、スタミナ十パーセント、マナ二十パーセント。

かなりやばいじゃないか!

カナちゃんは、HP二十パーセント、スタミナ十パーセント、マナ四十パーセントと……まだましか。

だが、前衛の二人が耐えているうちに、後方のスライムを一掃するべきだ……。

「分かった。忠信君、切り捨てろ」

「御意!」

忠信君は俺の前に出て、スライムの噴射攻撃を回避しながら切り捨てる。

だが、もちろん百パーセント回避できるわけではない。

俺は、レベル1のスライムを狙って魅了スキルを使うが、成功率はよくて半分か……。

「マスター、マミに自分を回復させて――!」

振り返ると、飛んでくる火炎弾からマミを自身の身体でかばっているミサキがいた。

「分かった、ちょっと待て」

マミの前方にあったプラントジェネシスがリセットされていた。

俺はマミの前にもう一度セットする。

「マミ、自身を単体ヒール、そのあとパーティーヒールだ」

「はい、マスター。これでマナ切れです」

「うん」

ヒメミも単体ヒールでより多く回復させたかったが、全員がヤバい状態だからそういうわけにもいかない。

離れているゆっきーさんまで回復できるのか少し不安だ。

もともとHPの少ないマミは半分ぐらいまで回復する。

ゆっきーさんも含め、全員が十パーセントから十パーセント強回復し、とりあえずほっとする。

いや待て!

カエデはどうしたんだ――!

振り返って、前線の方向を確認したが、ゴブリンの背後だから全く見えない。

「ヒメミ――カエデは?」

「すみませんマスター、先ほどから確認できていません。少し前にスタミナが切れかけていました」

「HPとマナは?」

「分かりませんが、確認した時は二十パーセントほどでした!」

やばいぞ――!

敵の中で、スタミナ切れで動けなくなって、マナ切れでステルスなくなったら最悪だ!

「カエデ――、戻ってこい!」

背を向けたまま叫ぶ。

声は届く距離のはずだが、反応はない。

「ミサキ、最後の矢をゴブリン後衛に」

「マスター、それはダメです! カエデが視認できないので、当たるかもしれません」

確かにそうだ……、マニュアルに同士討ち判定も有効とあった。

くそっ、しかたがない、スライムが先だ。

「マスター、魅了したスライムは、私が矢で直接突き刺して始末します。忠信君はレベル2をやって」

「おい、ミサキ、それって手で矢を持って突き刺すってことか?」

「そうです、私、他に武器が持てないので」

くそっ、ミサキにサブの武器スキルを持たせるべきだった――!

「すまない。スライムの噴射には注意しろ」

「はい!」

「拙者も承知――」

残り五体のところで俺のマナが尽きた。

 

「マスター! カエデが倒れています!」

ヒメミの声に振り返る。

ゴブリンは、六体ほどまで減っている。

ゴブリン戦士四体が前線で、ヒメミとカナに近接戦闘をしている。

その後ろに一体のゴブリン戦士と、ゴブリン魔導士がいる。

魔導士はマナが切れていて、火炎弾を放ってはいない。

その数メートル後ろに、カエデが倒れているのが見える。

まだステルスは効いているようだ。

よかった、生きている。

「マスター、カエデのマナ、もうすぐ切れそうです。スタミナゼロ、HP四十パーセントです」

「まずいステルス解除になったら気づかれる」

「これから指示は時計方向で出す、六時方向は、忠信君、ミサキ、頼む」

「はい、マスター」

「殿、拙者が全部切り捨てるでござる」

「マミは九時方向壁際に待避」

「はい、マスター」

俺が行くしかない。

「俺は一時方向、カエデを救助する」

このアンドロイドアバターの防御力頼みだ。

「マスター、カエデのステルスが切れました――」

くそっ、やばい!

カエデのすぐ前にいたゴブリン魔導士が振り返り、自分の後ろにカエデが倒れていることに気づいてしまった。

ステルスが切れると気配も気取られるのか……。

ウッギー!

自分たちを襲っていた見えない敵の正体を知ったのか、魔導士はその杖でカエデを殴り始めた。

一刻の猶予もない。

「ヒメミ、ノックバック!」

「マナが足りませんマスター!」

「私が! 全力で行きます。――盾スキル、バッシュ――!」

ドン――!

カナのナイト職特有のスキルのようだ。

盾が膨張し、それを突き出すと二体のゴブリン戦士が後方に吹っ飛ばされた。

「今ですマスター!」

ヒメミもスキル無しだが、自分の前の二体を左の方へ盾で押し込む。

カナは、半身になって場所を空ける。

俺はその横を通り抜け、魔導士ゴブリンを体当たりで吹っ飛ばし、カエデをなんとか抱え上げる。

魔導士ゴブリンに殴打されていたカエデのHPは、二十パーセント以下になっていた。

カナに吹っ飛ばされたゴブリン戦士は、まだ立ち上がれずにいたが、後方にいた一体のゴブリン戦士が俺に向かってきた。

やばい、腕がふさがっていて、よけられない。

切りつけてきたゴブリン戦士に背中を向けてカエデをかばう。

「マスターあぁぁぁ!」

ヒメミが叫びながら、前衛のゴブリンを放置してこちらに突っ込んでくる。

だめだ、お前が来たら前線が崩壊するぞ。

バシッ!

「ぐぅっつー」

背中を切り付けられた衝撃が走り、HPを二十パーセント以上持っていかれる。

やばいな、スライムの攻撃よりきつい。

アンドロイドアバターも物理攻撃には弱いのか?

それとも悪魔が力尽きたからか……。

「この野郎――マスターになんてことしてくれんのよー!」

ヒメミは凄い形相でゴブリン戦士に斬りかかる。

カナにノックバックを食らったゴブリン戦士二体が立ち上がる。

ウギャ――!

そのうちの一体を氷の矢が打ち抜いた。

ミサキが最後の矢を打ち込んだようだ。

ウギャッ!ウギャッ!

さらに、もう一体のゴブリンに斬撃を二度打ち込んだのは忠信君だ。

「えっ、お前らゆっきーさんを置いて……」

後方を見ると残り二体に対面しているゆっきーさんが見えた。

「こっちは大丈夫です――!」

「カナ殿、助太刀いたす」

ヒメミがおいてきた二体のゴブリン戦士を壁際に押し込んでいたカナに、忠信君が告げる。

「はい、お願いします」

ゴブリン魔導士はミサキと素手でもみ合っていた。

その横でヒメミは、既に倒れたゴブリン戦士を、斬る、いやタコ殴りしていた。

「このおーっ! この! この! このおーっ!」

「ヒメミ! そいつはもういい、ミサキを助けろ」

はっと我に返ったヒメミは、ゴブリン魔導士を盾で押しのけ、ミサキと引き離して斬りかかった。

いつも冷静なヒメミのそんなAIらしからぬ様子に、ちょっと驚いた。

だが、マスター好き好き設定だったことを再び思い出し、心の中でニヤついた。

感情系のマックス設定は、我を忘れる行動をとるくらい影響するのか……。

(著作:Jiraiya/ 編集:アヒッル)

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