目覚めてみたら、XANAマスターになっていた件

Episode 47 第47話「救えなかったものたち」


《迷宮オブロ地下第五階層最終ボス部屋》

『これにより、管理者がジライさんからホワイトキングさんに移りました』

――負けたのか……。

『新管理者は、六十分以内に再構築の設定を行ってください。設定されない場合は、デフォルト設定にて再構築されます。なお、再構築されたマップは変更できませんが、モンスターと罠の設定はいつでも編集可能です』

「よいたろうさん、早くこちらに入ってください!」

天風が地下階段の入り口で手招きする。

「全員退避――」

「はい、マスター」

「はい、パパ」

「御意」

地下階段の入り口に全員ダッシュする。

バンバンバン、バンバンバン――。

赤ペンギンたちの射撃が容赦なく襲いかかる。

入り口までは十メートルほどだが、さらにボス部屋に十数体の赤ペンギンたちが入ってきて、銃弾の嵐になった。

全員が床に開いた入り口に飛び込み、階段を駆け下りた。

――バタン。

最後に天風が入ると、その入り口が閉じた。

もう床には入り口の形跡すら残っていない。

階段の途中で、全員が一息つく。

「ふーっ、みんな大丈夫か?」

「はい、パパ」

「うちは大丈夫」

「拙者も問題ないでござる」

全員、データ損傷率が四十パーセント超えになっていた。

「天風さん、赤ペンギンたちは、ここに入ってこれないんですか?」

「入り口は見えませんが、ボス部屋とは繋がっているので、床をしらみつぶしに探されると、いずれは見つかります。ロックは解除できなくても、破壊することは可能です」

「時間の問題ということですね……」

「網代次第なのでなんとも言えません。持って二十四時間……もっと短いかもしれません。とりあえず、下まで降りましょう」

階段を降りると、そこには公園のような施設があった。

滑り台、鉄棒、ブランコ、砂場などの様々な遊具、そして大きな天幕があり、その下にはお菓子やゲームが並んでいた。

「ここは……」

「はい、ロストチャイルドたちの遊び場です。あの奥にある扉が、ヘブンズワールドへの入り口です」

天風が一番奥にある扉を指差した。

「あれが! じゃあ、マミもそこに入れないと!」

「マミはパパと一緒がいい、パパも一緒に来てくれる?」

マミが、だだっ子のように振る舞った。

「すみません、オブロから切り離すために必要だったので、既にロックしています。なので、破壊しない限り入れません……」

「えっ、なぜ? それじゃマミ、いや、ヒカリちゃんが……」

「……ヒカリちゃんは、もう……いないんです」

天風が口ごもり、目をそらす。

何を言っているんだ、こいつは……。

「えっ、いない? ……どういう意味ですか?」

「ヒカリちゃんは……その……間に合わなかったんです」

「間に合わなかった? 何がですか?」

「アストロヒューマン医療センターから転院した病院では、週に一度、一時間だけしかアダムに接続できませんでした」

「えっ、たったそれだけ? それじゃ六日間は、ずっと一人ぼっちの世界にいたってことですか……」

「……はい。……私は彼女を勇気づけるために、二度病院を訪れました。……必ず新しいアダムを作って、そこに連れて行くと約束しました……」

「……」

「でも、いつという約束はできずじまいで……せめて、あと一ヶ月耐えてくれれば……」

「耐えてくれれば?」

なぜ、過去形なんだ……。

「しかし、彼女にとって、それはあまりにも長すぎる時間だったと思います」

「そりゃそうでしょう」

「ええ、一日でさえ永遠に続くような孤独な世界だったはずですから」

「それって……ヒカリちゃんは、もう生きていないみたいな言い方ですけど……」

「……ヒカリちゃんは」

「……はい」

「一ヶ月以上前に……なりました」

「えっ、今なんて?」

「ヒカリちゃんは、生きることを諦めてしまったんです……」

「はぁ? 生きるのを諦めた? ヒカリちゃんは死んだ――!」

「医師は希望を失ったことで、生命活動が衰え、衰弱していったと……」

「――ちょっと待ってくれ。じゃあ、なんでここにマミが?」

「その子はただのAIです。アダムに残されたログと、ヒカリちゃんの母の記憶から生成したAIです」

「……マミは、ヒカリちゃんじゃなくてAI秘書?」

「ヒカリちゃんの記憶とメンタリティーを持つAIなので、人間の操作するアバターではありません」

「じゃあ、マミは嘘を……」

「いえ、AI自身は自分をヒカリちゃんだと思っています」

「――パパ、マミはヒカリだよ。ヒカリはマミだよ」

その時の俺には、マミの声が耳に入ってこなかった。

「えっ――なんでそんなことを!」

「ヒカリちゃんの母親、あけみさんのためです……」

「ヒカリちゃんの母親のため?」

「ヒカリちゃんとともに事故に遭い、ずっと意識不明が続いていたんですが、一ヶ月ほど前に奇跡的に意識を取り戻しました。皮肉にも、それはヒカリちゃんが亡くなった翌日でした」

「亡くなった翌日……」

「私は、あけみさんのために、ヒカリちゃんを再現したAIを作ったのです」

「お母さんのためですか……」

「今回のヘブンズワールドの資金は、あけみさんが受け取った交通事故の慰謝料から出ています」

「資金提供を受けるために……」

「いえ、それだけのためではありません。あけみさんは、意識を回復してから、ヒカリちゃんが亡くなったことを知らされ、それが受け入れられず精神的に不安定になりました。……ヒカリちゃんを救えなかったせめてもの罪滅ぼしに、私が全力を注いで再現したAIなのです……」

「ああ、そんな……なんてことだ……ヒカリちゃんを救うことなんて、初めからできなかったんじゃないか……」

俺は、急に立っていられなくなり、壁際までよろけ、腰が抜けたようにそこに座り込んだ。

「マスター!」

「パパ、マミはヒカリだよ、だから大丈夫だよ、パパ、パパ、マミは生きてるよ。ここにいるよ」

「殿……」

ヒカリちゃんは、どんなに絶望したことだろう。

身動き一つできないベッドの上で、ただただ時間が過ぎていくことを待つ、そんな毎日……。

いや、毎時間、いや毎分……毎秒だったかもしれない。

アダムでみんなと自由に遊べた世界から、突然戻された現実という――地獄。

それが、自分だったらと想像するだけでも恐ろしい……どれだけ絶望したことだろう……。

しかも、まだ低学年の子供だったんだ……、これ以上つらいことなんて世の中にあるのだろうか……。

くそっ……。

そうか……俺のしてきたことは全て無駄だったのか……。

ミサキを失ったことも……そしてヒメミを……。

「すみません……よいたろうさん……嘘をついていたわけではないのです」

「……」

「私は、ロストチャイルドたちを救いたかった、ヒカリちゃんのように生きることを諦めてしまう子供たちを、これ以上出したくなかった。ただ、それだけなんです……」

「あなたにとっては、AI秘書なんてロストチャイルドの犠牲にして当然かもしれない。だけど、俺にとっては家族みたいなものだったんだ」

いや、そうじゃない、世の中のほとんどの人が、子供たちを優先するのが当然だと、頭では分かっている……。

それでも俺には大切な、かけがえのない存在だったんだ。

「すみません、本当にすみません。私のわがままに巻き込んでしまったこと、心よりお詫びします」

「……いまさら」

「イブ、ヘブンズワールドの切り離しはどうなっている?」

「すでに準備は整っています。しかし、今切り離せば、場所を探知される可能性大です。オブロ管理者となったホワイトキングをボス部屋から排除することが必要です」

「今可能な手段は?」

「オブロ内ではプレイヤーによる排除しかありません。別件ですが、つい先ほどプログラムMEBAEが導入された形跡を探知しました」

「――そうか! 南がやってくれたんだな……対象となったAIは確認できるか?」

天風の顔が急に明るくなり、目が大きくなった。

「それは分かりません」

「……そうか。だが、わずかだが希望はあるかもしれない。イブ、この扉をより強化して時間を稼げないか?」

「二重にしても、あまり意味はありません」

「イブ、よいたろうさんたちを護る手段はないか……ステルスを付与するのはどうだ」

「プレイランド内のみですが、ステルス付与は可能です。ただし、クローンイブペンギンの認識を阻害できるのは、数分程度かと思われます」

「そうか……でも無いよりはましだな。イブ、ステルスを付与しておいてくれ」

「はいマスター。直ちに付与します」

「よいたろうさん、もし奴らが侵入してきたら、ステルスを使って脱出してください」

「……」

俺は返事をする気になれなかった。

「イブ、私はそろそろ限界だ。よいたろうさんにイブ代行管理権を設定――」

「はいマスター、よいたろうさんに代行管理権を設定しました」

――バタン!

「えっ……」

天風は突然倒れた。

その理由は分からない。

考えようとする気にもなれなかった。

もうどうでもいい、どうにでもなれ、ほんとにもうどうでもいい……。

何一つ救えなかった俺には、もう何も残っていない。

「パパ……」

マミとカエデが抱きついているその温もりさえ感じられないほど、心が凍えていた。

《オブロ開発会社の第二研究棟》

ジャッキーさんとルドさんが、エレベーターで二階に到着した。

「おまたせしました。持ってきましたよ、新兵器」

ジャッキーさんが手榴弾のようなものを二つ見せた。

「これ、もしかして手榴弾?」

「そうらしいです」

「うおー、これは凄い。ドア開けて、放り込んだら、ドッカーンだよね」

リアムンさんが興奮した。

「ですね。とりあえず、中に敵がいるか確認してからですけどね」

「早くやろう!」

リアムンさんは早く使ってみたくて仕方がないらしい。

「えっと、トリシメジさんは、別荘に戻って、ベンガさんのサポートをお願いします」

「了解シメジ」

トリシメジさんはエレベーターで下に戻っていった。

「では、僕は階段を降りて二階の様子を見てきます。リアムン隊長、マッシュルームさん、ルドさんでこちらを頼みます。こいつの使い方はルドさんが知っていますので」

「らじゃ、ジャッキーたん」

ジャッキーさんは、ルドさんに手榴弾を手渡すと、急いで階段を下りていった。

「じゃあ、私がドア開けるから、ルドたんが、それ放り込んでくれる?」

「了解です、任せてください」

「じゃあいくよー、三、二、一で、あっ」

「うわっ! わわわわ――」

ルドさんは、手榴弾のピンを抜きかけて慌てて、押し戻した。

「途中でやめないでください! ――ピン抜くとこだったじゃないですか!」

「あら、ごめんちゃい、てへぺろ。解除してなかった」

リアムンさんが、右手の拳を頭に付けて、首をかしげて、ペロリと舌を出した。

そして、ARグラスでしか見えないドア横のパネルの解除ボタンを押す。

「では本番だよ、三、二……あっ」

リアムンさんが途中でカウントをやめると、ルドさんが、ガクッと膝を折った。

「ちなみに、ゼロは言わないからね……」

「コントですか! 俺ら、昭和コントやってるんですか――!」

「マッシュ……」

マッシュルームさんが苦笑いを浮かべる。

「ごめんごめん、久しぶりにルドたんと会ったから、つい興奮して遊んでしまった」

「こんな場面で遊ばないでくださいよ……」

「じゃあ今度こそ、三、二、一」

ガチャ、――バン!

ARグラスでしか見えないドアノブを勢いよく回して、ドアを開けた。

「うわっ、今度は開けたの――」

ルドさんは、一瞬ピンを抜くのをためらったので、一秒ほど遅れる。

――パチン!

ピン、ピン、ピン!

投げ入れるより早く、オフィス内から射撃された。

ルドさんは、手首より先だけ出して、オフィスに手榴弾を投げ入れる。

カタン!

コロコロコロ――。

「――手榴弾!」

オフィス内で怒鳴り声が上がり、バタバタと伏せる音がした。

――ドッカーン!

「全員突入!」

リアムンさんの号令で全員が突入した。

カチャカチャカチャ。

カチャカチャカチャ。

カチャカチャカチャ。

とりあえず、全員相手も定めず発砲する。

「やっぱり発砲音が寂しすぎる……」

リアムンさんが呟いた。

オフィスデスクが四台ずつ三列並んでいた。

デスクの下も確認するが誰もいない。

「あれ、誰もいないマッシュ……」

「この手榴弾、リアルな物体は透過するんです。だから机の影に伏せてもダメージを受けるんです」

ルドさんが説明した。

「ルドたん、なにそれー、遮蔽物無視のチートじゃん」

リアムンさんが嬉しそうな顔で言った。

「これFPSゲーム用のアイテムではないので、いいんですよ。今回のためにリヨウさんが作ったんですから」

「ナイス、リヨウたん。これ使えば余裕で勝てるね」

「ここのPCって、例の偽イブに繋がってるのかなマッシュ?」

「まあ、試してみるほうが早いよね」

リアムンさんが、一台のデスクトップPCの電源を入れる。

起動したが、当然パスワードを要求される。

だが、こちらもその対策は持っている。

あらかじめ、ベンガさんから預かっていたUSBを差す。

何かが自動でインストールされた。

――ジッ。

『こちら第二版、リアムン。ベンたん聞こえる?』

――ジッ。

『こちら本部、ベンガです。感度良好です、でもリアムン隊長、そこはガを省略しないでくださいよ』

――ジッ。

『そう? じゃあベンガたん。三階オフィスは制圧。今、デスクトップにUSB差したよ』

――ジッ。

『はい。こちらでも確認しています。この端末、偽イブに繋がっているようですね。今、ウィルス送り込みました』

――ジッ。

『えっ、そんな簡単でいいのかな……』

――ジッ。

リアムンさんが首をかしげる。

もちろんベンガさんにはそれは見えていない。

『はい。それが狙いなんで、大丈夫です』

――ジッ。

『そうなんだ。で、ベンガたん、ここからはどうしたらいいの? 四階かな……』

――ジッ。

『しばらく待ってください。ここの端末が偽イブに繋がっているのなら、四階に行かなくても大丈夫です。よほど自信があるんでしょう。逆に、そこが付け入る隙になるんですけどね』

――ジッ。

『らじゃ、えっとじゃあ、しばらく待つね』

――ジッ。

『はい。そんなに時間はかからないと思います』

《オブロ開発会社の第二研究棟 二階》

「手榴弾投げ込みますので、オーブン隊長はARグラスに当たらなしように注意してください。遮蔽物も貫通するので」

二階オフィスのドアの外から、リヨウさんがオーブン隊長に声をかけた。

「えっ、貫通するんですか――。それ凄いですね。了解です」

オーブン隊長が中から返事をする。

オフィス内にいる、敵プレイヤーにも聞こえているかも知れないが、結果は変わらないので気にしていない。

「いきますよ、三、二、一」

――パチン!

リヨウさんが、手榴弾のピンを抜き、投げ入れる。

入り口付近にいるオーブン隊長には当たらないように、なるべく奥へ投げ入れた。

万が一当たっても、ARグラスに当たらなければ3分ほど見えなくなるだけですむ。

ピン!

「うわっ」

腕を出したところを、正確に射撃されてリヨウさんが驚く。

カタン!

コロコロコロ――。

――ドッカーン!

「突入!」

ジャッキーさんを先頭に、モネさん、マコさんが突入する。

リヨウさんは三分機能停止で、敵が見えないのでホールで待機した。

オーブン隊長は立ち上がって、敵プレイヤーを確認する。

――カチャカチャカチャ。

ダメージを受けているらしい一人のプレイヤーに三度射撃を加え、デッド表示がでた。

――ピン!

「うわっ、まじ!」

ジャッキーさんがARグラスに射撃を受けてしまった。

もう、この場所ではARグラスが機能しないことになる。

――ピン!

「げっ……食らった」

最後に入ったマコさんもARグラスに射撃を受ける。

カチャカチャ。

「イエーイ! やったモネ――」

モネさんが、マコさんを撃った敵プレイヤーを一人倒した。

手榴弾でダメージを受けていたらしく、一発目でデッド表示になる。

――ピン!

――ピン!

部屋の左右の隅にそれぞれへばり付き、手榴弾を回避していた敵プレイヤー二人が健在だった。

モネさんは、部屋の左右の隅から射撃されたが、すぐにしゃがんだため、運良く回避した。

カチャカチャカチャ。

オーブン隊長が、右隅の敵プレイヤーを射撃しデッド表示を出す。

「おっしゃー!」

――ピン!

しかし、左隅の敵プレイヤーに肩口を撃たれた。

三分間のAR機能停止になり、デスク下に回避する。

「くっそー」

プレイヤーは五人いたはずだが、一人は手榴弾にやられたらしく、残っているのは、あと一人だけだ。

しかし、こちらもジャッキーさん、マコさんがARグラスを撃たれ、戦力外になってしまった。

オーブン隊長はAR機能停止中なので、オフィス内で敵を認識できるのはモネさんだけになってしまった。

「モネさん、俺が回復するまで、無理はしないで」

オーブン隊長がモネさんに小声で囁く。

「了解モネ……まじ、こんな時にモネ……」

モネさんがスマホを確認して言った。

「どうしました?」

「旦那モネ、ベビモネが熱出したらしいモネ」

「それは心配ですね、早く片付けて帰らないと」

「ごめんモネ――」

――ジッ。

『オーブン隊長、リヨウです。回復したら言ってください。俺、回復したので突っ込んで陽動します』

部屋の外にいたリヨウさんが、ヘッドセットで連絡してきた。

――ジッ。

『了解。でもリヨウさん、手榴弾という手もありますよ』

オーブン隊長が提案した。

――ジッ。

『あと、一個しかないので、温存しておきましょう』

――ジッ。

『あっ、なるほど了解です。では回復したらお願いします』

――ジッ。

『了解です』

《数分後》

――ジッ。

『オーブンです。リヨウさん、こちら復帰しました。いつでもオーケーです』

――ジッ。

『リヨウ了解です。三カウントで突入します』

――ジッ。

『オーブン了解です』

――ジッ。

『カウント開始します、三、二、一』

「おりゃー」

リヨウさんが、雄叫びを上げて突入する。

左角のデスクに隠れている敵プレイヤーに突進した。

その後ろを、リヨウさんを盾にするように、モネさんが屈みながら進む。

オーブン隊長は、身を屈めて部屋の反対側の壁までダッシュし、壁際を左へ進む。

――ピン、ピン!

リヨウさんは身体を半身にしてARグラスをかばうが、胸と頭に命中弾を受けた。

ARグラス機能が停止し、それ以上撃たれないようにデスクの影に隠れる。

――カチャカチャカチャ。

モネさんが、リヨウさんを撃ってきた敵を狙ってその背後から射撃する。

一発は足に当たったが、ヘッドショットではないため、デッド表示には至らない。

足に当たった弾は致命傷にならないが、おそらくダッシュはできなくなるだろう。

カチャカチャカチャ。

反対の壁側から回り込んだオーブン隊長が、無防備になった敵プレイヤーの側面から射撃した。

「よっしゃー!」

二発が命中し、最後の敵プレイヤーがデッド表示になり、消えていった。

 

――ジッ。

『こちら第一班、オーブンです。二階の敵を制圧。デスクトップを起動、USBを挿入しました』

――ジッ。

『こちら本部、ベンガです。こちらでも確認しました』

――ジッ。

『こちら第二班、リアムンだよ。ねぇ、なんか今、画面にウィルスと認識されたため削除しました。って出て、少ししてからsuccessって出たよ。これってどういう意味?』

――ジッ。

『こちら本部、ベンガです。リアムン隊長、目的は達成しました。撤収してください』

――ジッ。

『えっ、なんでなんで? ウィルスってばれて削除されたら意味ないよね? 最上階のシステムを物理的に破壊するんじゃなかったの?』

――ジッ。

『こちら第一班、オーブンです。こちらも同様の表示が出ました』

――ジッ。

『こちら本部、ベンガです。目的が達成できたので、とりあえず終了です。戻ったら説明させていただきます』

――ジッ。

『えーっ、そうなの……』

リアムンさんは納得がいかない様子だ。

――ジッ。

『そうなんですか……』

オーブン隊長も同じく納得していないようだ。

――ジッ。

『詳しくは戻ってからお話しますので、両班とも撤収してください』

――ジッ。

『第一班、オーブン了解です。撤収します』

――ジッ。

「うーん、よくわからないけど、仕方ないか」

リアムンさんは、そう言いながらポケットから別のUSBを出した。

PCの正面にはまだUSBを差す場所はあったが、背面のパネルを覗き込み、そこにあったUSB挿入口に差し込んだ。

気休めにすぎないが、発見されにくいだろうと考えたからだ。

「えっ、リアムン隊長、何してるマッシュ?」

それを見て、不思議に思ったマッシュルームさんが訪ねた。

「うん、これモネたんから受け取ったやつ」

「ああ、天風さんの部下にもらったやつモネ。もしチャンスがあったら偽イブの端末に差してくれってやつモネ」

二人の話を聞いていて、モネさんも寄ってきた。

「うん、それ」

「でも、勝手に差してよかったモネか……」

「しーっ、内緒」

リアムンさんが、いたずらっぽく唇に人差し指を当ててみせた。

「モネ……」

モネさんは苦笑いを浮かべた。

「マッシュ……」

マッシュルームさんは、いつものことだと言わんばかりの顔をした。

――ジッ。

『ベンガです、リアムン隊長、大丈夫ですか?』

――ジッ。

『あっうん、問題なし、撤収するね』

――ジッ。

(著作:Jiraiya/ 編集:アヒッル)

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