目覚めてみたら、XANAマスターになっていた件

Episode 43 43話「それぞれの戦い」


《ギルドユニオン本部》

ボタモチさんは、ギルド本部のラウンジにリスポーンした。

「よかった……生きてた。お前たちも……」

「はい、キャプテン」

AI秘書ユナ・エリス・ジュリエッタたちが同時に答えた。

「喜んでばかりもいられない、すぐ報告しないと」

ボタモチさんは報告のため、ギルトの会議室にダッシュする。

「うっ、うわー!」

「キャプテン――」

ドアを開けた瞬間に目にしたのは、頭だけのぺんちょさんだった。

驚いて腰を抜かしそうになったところを、すぐ後ろにいたAI秘書ユナが支えた。

「あっ、ボタモチさんは初めて見たんですね。驚かしてすみません。マスターのぺんちょは、こんな状態ですが、元気ですからご安心ください」

ぺんちょさんの頭を抱えていた、AI秘書のマナミンが申し訳なさそうに言った。

「あっ、そっ、そうなんだ。ビックリした……」

「マスターは、リアルの世界にいて、時々連絡のために戻ってきます。今は離席中です」

「そっ、そうなんだ……いや、ぺんちょさんだけ連絡が取れる状況というのは聞いてたけれど、頭だけになって残っているというのは聞いてなかったから……」

「そうですよね、お店から直接オブロに向かったんですものね」

「うん、えっと、ギルマスたちは?」

「みなさん外にいます。襲撃してきたバグバスターペンギンたちは、先ほど倒しました」

「じゃあ、僕たちも外に行こう」

「はい。お願いします。でも、その前に現在の状況をご説明します」

「あ、そうだね」

「現在の戦力は、馬に騎乗するギルマスのジショさん、クマに騎乗するチックタックさん、お二人とも足をやられています。あとヤキスギさんと、リブさん、AI秘書はヤキスギさんのマリアだけです」

「そこまで被害が……次の襲撃まではどのぐらい?」

「前回の発生からすると、あと六十分ほどかと思います」

「了解!」

《地下迷宮オブロ対岸の桟橋》

地下迷宮オブロの対岸にある桟橋に、リスポーンした者たちがいた。

一番最初にリスポーンしたのはゆっきーさん、そのあと、ダブルティムさん、たもつさんとそのAI秘書たちが続いた。

「あれ、ボタモチさんは?」

リスポーン直後のダブルティムさんがすぐに気づく。

「ほぼ俺と同じタイミングでやられたんですが、おそらくリスポーン登録の場所がギルド本部なのだと思います」

「ああ……それなら良かった。みんな無事なんだ」

ダブルティムさんは、ほっとした表情になる。

「当初は死ぬかもって恐怖だったけど、とりあえず、今のところみんな無事で良かった。ところでゆっきーさん、バスターペンギンは今どうなってますか?」

たもつさんは、周囲を見回して警戒しながら言う。

「こっちで最後に襲撃された時間と、オブロでリスポーン前に確認した時間から計算すると、次の襲撃まであと一時間ほどでしょうか? 九十分間隔が変わっていなければですが」

「そうか、さて俺たちはどうすべきかな……、オブロに戻るかそれとも……」

たもつさんが、今後の取るべき行動について意見を求める。

「よいたろうさんたちも心配ですが、オブロはリスポーンできると分かりましたし、アヒル隊もいるので、やはりここはギルト本部へ向かうべきかと思います」

ゆっきーさんが提案する。

「えっ、アヒル隊も!」

たもつさんとダブルティムさんがほぼ同時に言った。

「はい、第三世代秘書のアンちゃんがいなくなって、探しにきたみたいです」

「なるほど……それならやはり俺たちは、まずギルマスたちのところへ行きべきかな」

たもつさんが同意した。

「ですね、まずリスクの高い方に援護に行きましょう」

ダブルティムさんも同意する。

「――えっ、ええええ!」

突然ゆっきーさんが大声を上げた。

「えっ、なに?」

「ど、どうしました!」

たもつさんと、ダブルティムさんはビクッとした。

「お二人とも、オブロの中に何日ぐらいいたか分かります?」

「三日ぐらいじゃない?」

たもつさんが即答する。

「えっと、俺もたぶんそんな感覚ですが……えっ!」

ダブルティムさんは、自分で日付を確認して驚く。

「ん、なに……えーっ?!」

たもつさんも自分のコントロールパネルを開き、驚きの声を上げた。

彼らがオブロに入った時から、六日と数時間が経過していたのだ。

「どっ、どういうことだ……リスポーンに三日も、かかったのか?」

たもつさんは、リスポーンされるまで、日にちが経過していた可能性を考えている。

「ありえますね。もしくはオブロの中と外では進む時間が違うとか……」

ダブルティムさんは別の可能性を推測する。

「その場合、リアルとXANAの時間経過の違いが心配になりますね。戻ったら何年も過ぎていたとか?」

ゆっきーさんは、竜宮城で過ごしているうちに、おじいさんになってしまった浦島太郎物語を想像しているようだ。

「うわーっ、それ怖いな……。帰ったら何十年も過ぎてたとかはやめて欲しい」

たもつさんも浦島太郎を想像したようだ。

「そういえば、オブロの中でも何回か意識飛びましたよね。睡魔に襲われて」

ダブルティムさんは、活動限界と表示されて、睡眠状態に入ったことが原因かもしれないと考える。

「いろいろバグっているから、オブロでの時間表示は信用しない方が良さそうですね」

ゆっきーさんは、オブロでの時間表示自体の信憑性を疑う。

「だがそうすると、なおさらギルド本部が心配だな、早く行こう!」

たもつさんがそう言うと、二人は不安そうな顔で頷いた。

《オブロ開発会社の第二研究棟》

オブロ開発会社の第二研究棟は、社屋とは二キロ以上離れた山奥にあった。

山奥といっても別荘地なので、ところどころに住宅や別荘が建っている。

いくつか明かりのついている建物もある。

第二研究棟の二十メートルほど手前にある貸別荘に、一台の大型ワゴン車が停まっている。

ギルドユニオンのメンバーで結成された、ARグラス部隊が乗ってきたものだ。

深夜二時、貸別荘のリビングに九人が集まっていた。

「じゃあ、部隊編成するね。ここを指揮所として指令を送るのはベンガさん」

ジャッキーさんが部隊編成を発表する。

「ラジャ」

ベンガさんがそれに応じて、早速ノートパソコンを開いて起動させる。

「僕ジャッキーとルドさんは、予備部隊としてここに待機します」

「了解です、ジャッキーさん」

ルドさんは、みんなのコーヒーを用意しながら応えた。

「襲撃班は、第一班がオーブン警備隊長、モネさん、マコさん。第二班がリアムン隊長、マッシュルームさん、トリシメジさんです」

それぞれが、順次『はい』と応えていった。

「みんな、XANAのARアプリはダウンロードしてるね。二時三十分にここを出発します」

「ねーねー、そこってさ、アリソックとかの警備会社に通報されるとか、警察に通報されるとかあるのかなあ……」

リアムンさんが、見つかった場合の心配を口にする。

「警備には自信あるみたいで、警備員も警備会社も入っていないのは確認済みです。それと……これは言っていいのかな」

ジャッキーさんがオーブンさんの顔を見た。

オーブンさんは了承して頷いた。

「えっと、オーブン警備隊長の親族が、はっきりとは言えないんだけど、手を回してくれているから大丈夫。ただし、得られた情報は当局に提供することになってるよ」

「おおっ、さすがオーブンたん!」

「いや、リアムンさん、俺が凄いわけじゃないので……」

《ギルドユニオンゼーム会議》

パッションソルトさんとぺんちょさんが二人だけでゼーム会議を行っていた。

「解決策が見つかって良かったよ。まだXANAにログインするにはリスクがあるからね、パッション」

「ほんとだペン、さっきギルド本部に行ってみたら、ボタモチさんがオブロからリスポーンしてたぺん」

「えっ、ほんと! それはほんとに朗報だね、パッション!」

「XANAペットからの知らせも届いていて、ゆっきーさん、ダブルティムさん、たもつさんも桟橋にリスポーンして、ギルド本部に向かっているらしいぺん」

「それは素晴らしい! じゃあ、バスターペンギンたちの対処は問題なさそうだパッション!」

「AIたちがどんどん減って、ほんと心配だったペン。ログイン問題も予定通りには解決してないし、もうだめかと思ったぺん」

「あとは、オブロ開発会社の第二研究棟の攻略に成功すれば、かなり流れが良い方向になるね、パッション!」

「全ての元凶は、偽物のイブ。これによるハックが今回の事件の原因の九十九パーセントだと、XANA運営側も認識しているようだぺん」

「そこを物理的に破壊とかすればいいのかな、パッション?」

「いや、難しいことは分かんないけど、運営サポートのエムトさんから、偽イブを遮断する案を教えてもらってるぺん」

「そうすればログインできるようになるんだね。あとはAR部隊の吉報に期待だパッション! あれ、よいたろうさんどうなったパッション?」

「まだオブロにいるペン。あと、アヒル隊長も一緒に戦っているそうだぺん」

「えっ、アヒル隊長も! それは期待できそうだパッション!」

「でも苦戦しているらしいよ。ただ、負けてもリスポーンできるなら、リスクは低いぺん」

「そっか。じゃあ、ログインできるようになったら、みんなでオブロ攻略だね、パッション!」

「それは楽しそうだぺん!」

「ぺんちょさんは、まず頭を取り戻さないと、パッション!」

「……頭ちゃんと身体にくっつくのか心配ぺん」

「あっははははは、パッション、パッション!」

「あれ? そう言えば、もう一人誰かいた気がするぺん……」

「……パッション?」

《オブロ地下第四階層》

「マスター、誰かいてはります! みんな注意して!」

突然カエデが叫んで、クナイを構える。

全員扉に注目するが、誰の姿も見えない。

「ステルス状態どす。場所は分からしまへんが、この部屋の中にいてはる。私のスキルで完全看破できひんレベルみたい」

「待って! 危害を加える気はないんだ! 頼む、話を聞いてくれないか!」

突然、何者かの声がした。

みんなビクッとなって身構える。

だが、見渡しても声の主の姿も位置も特定できない。

「プレイヤーか? 聞いてほしいのなら、先にステルス解除しろ!」

姿が見えない……これが敵だったらかなりヤバい。

「分かった、いま解除するから、攻撃しないでくれ」

突然ドア付近に、リアムアバターを着たプレイヤーが現れた。

見覚えがあるアバターだ。

プレイヤーネームは設定で隠されているのだろう、意識しても表示が浮かばない。

「それだけじゃダメだ。プレイヤーネームを表示させろ」

アヒル隊長が正体を明かすように求める。

「ああ、すまない。だけど……うん、まあいいか。今表示させるから待って……」

プレイヤー名が表示される。

「やっぱり、ジライさん」

アヒル隊長は予想していたようだ。

俺もなんとなくそう思っていた。

「ジライさん、なんでここに?」

まだ敵か味方か分からない。

だが自分が知っているジライさんとは雰囲気が違う気がする。

「あっ、はい、いえ、このアカウントはジライなんですが……中身は違います」

「中身は違う?」

「ええ、ここ一ヶ月ほど弟のアカウントを借りて出入りしていました」

「ジライさんのお兄さんということですか?」

「はい。天風といいます。まあ弟も天風ですけど」

「天風おじちゃんなの!」

マミも驚いたようだ。

だが天風は、マミに頷いたてみせただけで、声はかけなかった。

「えっ、イブの開発者……」

「うーんと、正確には違いますが、その認識で問題ありません」

「ジライさんのお兄さんだったなんて……。 それで……その天風さんがなぜここに?」

アヒル隊長が、突然右手を挙手し、まるで質問するかのように言った。

「ごめん活動限界が……」

――バタン。

アヒル隊長が突然倒れて眠り込んでしまった。

「ああ、活動限界ですね。イブの作るメタバースは、そのリアルさゆえにかなり脳に負担がかかりますからね。ずっとログアウトしないでいるとそうなります」

天風が解説するように言った。

「貴方のせいですよね」

俺はそれがまるで他人事のように聞こえて腹が立った。

「……そうですね、すみません。私が招いた結果です。プレイヤーの皆さんには本当にご迷惑をおかけしています」

天風にも苛立ちが伝わったようだ。

「バスターペンギンにやられたら、命の危険もあるというのは本当ですか?」

「……はい。肉体は管理していれば問題無いのですが……意識が閉じてしまい、覚醒できなくなる危険があります……」

「つまり昏睡状態……殺人にも値しますよね!」

「はい、結果的にそうなります。ただ言い訳させていただくなら、私の計画ではそんなリスクは生じないはずでした」

「では、なぜこんなことになっているのですか?」

「本来、XANAのマザーⅡとイブの連携は敵対的なものではなく、オブロでのプレーをより楽しんでもらうための友好的なものでした。それがクローンを悪用した偽イブの侵入によってこんなことに」

「やはり大方の予想通りか……細かいことは今はいいです。現況を解決することが優先です」

「はい。そのためにここに来ました」

「分かりました、それを聞きましょう」

「はい。現在、このオブロの管理者は私です。ここの管理権はイブの一部でしかありませんが、私の計画する、誰にも邪魔されずに、見捨てられた子供たちを助けることのできる世界を完成させるまでは、敵に奪われたくない権限です。敵対者はこの管理権を奪い、最短で計画を阻止するのが目的です。そのために偽イブを使って、ここに侵入してきたのです」

見捨てられた子供たち……ヒカリちゃんみたいな子が他にもいるってことか。

そしてそれはおそらく、いなくなった子供の姿をした第三世代AIたち。

「その子供たちについては、話すと長くなるので――」

「だいたい理解しているので、その説明はいいです。俺が今すべきことを言ってください」

「はい。五階層の最終ボスが倒されると管理権を奪われます。今、第二波の攻撃を排除しましたが、前回の発生時間からして、あと二十分ほどで、また赤ペンギンたちが襲ってきます」

「それと戦えということですか?」

無理だ、今の戦力では全滅する、そんなことをマミたちにはさせられない。

「いえ、五階層のボスを倒して管理権を私から奪ってほしいのです」

「えっ、オブロ攻略ってことですか?」

「はい。攻略して管理権が移れば、オブロは再構築されます。攻略されると階層は倍になり、地下第十階層になります。おそらく偽イブの侵略から遠ざかることができ、時間が稼げます。その時間で子供たちのいるワールドを完全隔離し、二度と見つからないようにできます」

それなら可能性はあるな……。

そして、赤ペンギンたちと戦うリスクよりずっと低い。

「カエデ、忠臣君、どう思う?」

「ボス攻略ならやれんでマスター」

「拙者もでござる殿」

「その間、赤ペンギンたちは私たちが抑えます」

「勝てますか……奴らに……。アヒル隊と、それに俺の動けなくなったAI秘書も護って欲しいんですが」

「すみません、今度はもっと数を増やしてくるでしょうから厳しいです。この方……アヒル隊長さん? だけでしたら何とかします、申し訳ありませんが……AIまでは無理です、人を優先させていただきます」

「俺にとってはAIも家族……いや……いいです。時間が無い」

「すみません……ではボス部屋までご案内します」

「レベッカちゃん、サクラちゃん、アヒル隊長とリアーナちゃんを連れてきてくれるかな」

俺はアヒル隊長のAI秘書たちに指示した。

「はい」

レベッカが返事をして、サクラが頷く。

「すみません、その動けないAIはここに残してください。少しでも負担を減らしたいので」

「それはダメです!」

俺はつい声を荒げてしまった。

それは到底納得できない。

「――よいたろうさん! 私はここに残ります。足手まといになり、隊長の危険が増します。私はそれを受け入れられません」

リアーナが自分から拒否してきた。

「でもそんなことをしたら、俺がアヒル隊長に恨まれてしまうよ」

「よいたろうさん、隊長をみくびらないでください。隊長はそんなことは絶対しません!」

今度はレベッカが抗議してきた。

「そうか……わかった。君たちの意思を尊重するよ」

レベッカとサクラはリアーナと抱き合い別れを告げた。

そして、レベッカはアヒル隊長を抱え上げて歩き出す。

俺は、ヒメミと別れた時の光景を思い出さずにはいられなかった……。

(著作:Jiraiya/ 編集:アヒッル)

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