Episode 36 36話「遊園地と乃木丘三十八」
「キャーアァァァァァ――!」
うぐっ――ヤバ、これ思っていた以上に怖いじゃん!
自分のランドにXANAビルダーで作った遊園地のジェットコースターだ。
マミが遊びたいというから、一緒にコースを設計して設置した。
俺はパソコン上で製作しただけで、VRゴーグルで体験したのは初めてだった。
特に八十度のキリモミ落下は、おしりがムズムズして心臓が痒くなった。
「ねえマスター! もう一回、もう一回!」
「えっ……」
俺は一回で充分だったが、マミは相当気に入ったらしく、五回も乗る羽目になった。
六回目はさすがに無理だったので、ヒメミを呼んで代わってもらった。
その間、俺はXANAからログアウトして一時間ほど休息した。
「マスター、勘弁してください。十回も乗せられたんですよ。さすがにもうスタミナ切れです」
そうか……ジェットコースターでスタミナって減るのか。
「あはっ……ヒメミすまん。そうだマミ、お化け屋敷はどうだ?」
「お化け屋敷……。うーん、うーん……マスターとだったらどこでもいい」
「そっ、そっか、じゃあ行こう」
ふう、助かった、もうジェットコースター系は勘弁だからなあ。
「あの、マスター……」
「ん? どうしたヒメミ」
「私も一緒に行っていいですか?」
「えっ、ヒメミも? うーん、別にいいけど、なあマミ?」
「うん、いいよ」
「じゃあ、お供します」
「ギャー、やだー、やだー、おばけ嫌い、やだー、出るー、出るー」
「マミ、戻ることはできないから、目をつぶって手をつないでいれば大丈夫だから」
メタバースお化け屋敷は、普通のお化け屋敷よりもずっとリアルだった。
ミサキに設計させて、俺は配置しただけ。
PC画面上ではお化けを配置するだけだから、その怖さは分からなかったが……。
ちょっと、これは子供には刺激が強すぎたかもしれない。
あれ? でもマミの設定に、お化け怖いなんて項目あったかな……?
「ん?」
ヒメミがマミと反対側の俺の腕にしがみついてきた。
「えっ、まさかヒメミも怖いのか?」
「はい! すごく怖いです、マスター。だから私もエスコートしてくださいね」
「いや、ヒメミ、それ全然怖がっているように見えないんですけど……」
「そんなことないですよ、マスター。私だって怖いです。キャア」
……表情一つ変えず、抑揚無しで言われてもなあ。
なるほど、もともとそれが目的でついてきたのか。
結局二人とも、終始俺にしがみついていただけだった。
これってお化け屋敷の意味あったのか?
お化け屋敷を出てからも、二人ともしばらくそのままひっついていた。
「マスター、今日は魔法少女ソラシドちゃん来てないの?」
「えっ、うーんとどうだろう……ヒメミ分かるか?」
「今日はメイン会場での催しはありませんけど、XANAタウンで乃木丘三十八のイベントがありますね」
「えっ、そうなの!」
「はい。一緒に行きますか? そういえば、カエデが行きたいって言ってましたね」
「いや、それ俺も行きたいし」
「マミは、魔法少女ソラシドちゃんがいい!」
「マミ、たまにはマスターの好きなものも見に行きましょう、ねっ」
「うん……わかった」
「ヒメミ、チケット取れる?」
「はい、まだ空いてますね、四枚でいいですか?」
「うん、そうだな。ミサキは今デュエルに出ているから」
後で怒りそうだから、ミサキには内緒にしておかないとな……。
遊園地からXANAタウンまでは遠かったので、ワープポイントから移動した。
XANAタウンに着くと、カエデが待っていた。
「ずっこおすマスター。三人で遊園地行っとったんどすって!」
「まあまあ、ヒメミはマミのおもり役に呼んだだけだから、俺はその時いなかったし」
「次はうちとマスターで、忍者屋敷デートどすさかいね」
忍者屋敷でデートが成立するのか……。
「わっ、分かった、今度ね」
「やったあー」
「マミも、マミも行くー」
「だめ、マミは遊園地行ったやろう」
「やだあ、マミも行くー」
「マミちゃん、忍者屋敷はとっても怖いのよー、子供が行ったら手裏剣で刺されてまうんやさかい」
カエデは、お姉さん口調になった。
「そうなのマスター?」
「ん? うーん……うーん、そうなの……かな」
「ほらマミちゃん、分かったやろう? また今度、遊園地行こうなぁ」
いや、俺、今同意してないけど……。
「……うん、怖いのは嫌」
「おおおお、すごいぞ! アバターが、アバターが……」
俺はアバターライブをなめていたが、乃木丘三十八のアバターは、ほんとに実物そっくりだったのだ。
「凄い可愛いおすけど、うちには負けるで。なあ、マスター?」
「えっ、あっ、うっ、そうだな。うん、カエデの方が可愛いなあ」
「どすなぁー、うふっ」
「マミは? マミは、マスター?」
「うん、もちろんマミもかわいいぞ」
「やったあ」
「乃木丘メンバーの全身を百二十台のカメラで撮影して、3Dでスキャニングして作ったんだそうですよ」
ヒメミはすました顔で無表情で言った。
「そうなんだ、凄い進化してるんだなあ……ヒッ、ヒメミの方が美人だけどな」
フォローしたつもりだったが、ヒメミは無反応だった。
「マスターもやったらええのに」
「えっ……」
想像しただけで自分で引いた。
ただのおっさんのリアルアバター作ってもなあ……。
――はっ!
「あっ! マスターおはようございます」
ヒメミは、俺が目を覚ましたことにいち早く気づいた。
「今、何時だ?」
「朝の四時を回ったところですね……」
まじかぁー!
「どんだけ寝ていたんだ?」
「十時間ぐらいだと思います」
「そんなにか……」
現実世界では寝ても七時間程度だったのに、なぜここではこんなに寝てしまうのか。
身体は全く使っていないのに、そんなに脳が疲労するものなのか……。
(著作:Jiraiya/ 編集:オーブ)
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