目覚めてみたら、XANAマスターになっていた件

Episode 35 35話「再会とヘブンワールド」


ボス部屋の入口扉が開く。

全員が身構える。

だが、何も入ってこない。

なんだ?

タッタッタッタッタッタ……。

「マスター注意してください! 何かステルス状態のものが来ます!」

ドカッ。

「うわっわわわわ」

突然何かに体当たりされた……。

いや、抱きつかれた?

「えっ……」

「マスタァ、マスタァ、マスタァ――!」

「カッ、カエデか!」

「えっ、カエデ? 一体どこから湧いたの」

「ちょい、人を虫みたいに言わんといてや!」

「ええっー、カエデなの?」

「カエデちゃん?」

「殿! ご無事でなりよりでござる!」

次に走り寄ってきたのは、忠信君だった。

俺の前で跪いて、ほっとした顔を浮かべる。

「カエデ殿、ステルス、ステルス解除しなされ。パーティー外だから、殿には見えぬでござる」

「あっ、そや。……解除」

カエデが抱き着いていた。

俺を見上げて、ボロボロ涙を流している。

「よかったあぁぁぁ、マスターに会えたぁぁぁ、ふぁぁぁぁ」

「お前たち一体どこから……」

「殿、よろしければ、それは拙者が報告するでござる」

カエデはそれどころではないらしい。

「ああ、頼む忠信君」

「二階層のボスは問題なく倒せたでござる。ただ、ボス部屋の出口は三つあったでござる」

「えっ、三つも……」

「それで、一つはアヒル隊、一つはゆっきーさんボタモチさんと拙者たちで、二パーティーに別れたでござる」

「なるほど」

「地下第三階層のボス部屋で苦戦しまして……拙者たちも危うく死ぬところでござった」

「ああ、二体目のボスだな」

「やはりこちらも出たのでござるか……殿たちはよくご無事で」

「いや、ここに囚われていたダブルティムさんと、たもつさんの犠牲のおかげなんだ」

「そうでござったか……実は拙者たちも、ゆっきーさんとボタモチさんの犠牲があったでござる」

「えっ!」

「殿、できることなら拙者は腹を切ってお詫び申し上げたいところ……恥を忍んで殿に会うまではと」

「いや、お前がいなくなったら、ゆっきーさんたちの犠牲も無駄になる。絶対にそれは許さん」

「御意」

「ゆっきーさんたち、消える時どうなった? リスポーンエフェクトだったか?」

「殿、仰せの通りでござる。あれはリスポーン時のエフェクトと同じだったでござる」

「そうか」

「それで、三階層のボスを倒しても殿たちが見つからなかったので、二階層のボス部屋に戻ったでござる」

「ん? 二階層のボス部屋に戻れたのか?」

「念のため、ボス部屋の宝箱を解除せず、リジィーをボス部屋に残しておいたでござる。全員出てしまうと、リセットされる可能性がありますので」

「おお、凄い! 忠信君、賢すぎるぞ」

「いえ殿、これは拙者ではなく、アヒル隊長のアドバイスでござる」

「そうか……さすがアヒル隊長だな。で、アヒル隊長たちはどうなった?」

「アヒル隊長たちは、行けるところまで先に行く。拙者たちは三階層のボスまで攻略し、殿たちが見つからなければ二階層に戻って、残り一つの出口を進む計画でござる」

「なるほど……」

「この階層に降りてみると、既にモンスターたちが一掃された後で、もしやと思い、急いでボス部屋に来たでござる」

「そうか、それはいいタイミングだった。ボスがリセットされていたら合流できなかった」

「誠によかったでござる」

ここで時間を取られたのも、不幸中の幸いということか。

「よくやったわ、忠信君、カエデ。……でもカエデ、もういい加減マスターから離れなさい。マスターまだ回復中ですよ」

ヒメミは俺にしがみついているカエデを引き離そうとする。

「そうよカエデ、次は私の番だよ。私だって、さっきまで意識失うくらい頑張ってたんだからね」

そこへミサキも加わる。

「ダメ! まだまだぁー、もっとぉー、うちなんか、ずーっとマスターと離れて頑張ったんやさかいー」

二人に背中を掴まれて引き離されそうになったカエデは、俺のアバターにしがみついて抵抗する。

しかし二人がかりでは耐えきれず、引き離される。

「よしっ!」

カエデが引き離された瞬間、ミサキが抱き着いてきた。

「うわっ、ちょっと待てミサキ」

「こらミサキー!」

「あっ、ずるいで、ミサキちゃん!」

「次は私の番、ねえマスター、私頑張ったよね?」

「うん、頑張ったよミサキ。あの一斉射も、最後の火矢でとどめを刺したのも見事だった。ありがとう」

「うわーい、マスターに褒められた―、マスター、頭撫でて、撫でて」

「あっ……うっ、うん」

確かにミサキのおかげで、いや全員のおかげだが、ここはそうするしかないよな。

頭をなでなでしてやった。

「うひゃー」

ミサキは奇妙な声を上げて喜んだ。

「あああああ、ずるいや、マスターのいけず、うちにはしてくれへんかったのに!」

カエデは俺の腕を掴んですねる。

ヒメミはあきれ顔でそっぽを向いた。

マミは座ったままむくれる。

そういえばセンちゃんが消えている。

HPを失ってアイテムボックスに戻ったのだろう。

――警告、間もなく活動限界に達します。

えっ、また?

おいおいおい……まだ午後六時だぞ、寝るにはまだ早いだろうが……。

しかも、さっき十二時間寝たばかりだぞ。

メタバース内でどんだけ眠らせるつもりなんだよ。

なんなんだ、そんなに脳が消耗しているのか俺は……。

「すまんみんな、また睡眠がきそうなんだ……」

「えっ、マスター、もうですか?」

「そうみたいだ、ヒメミ、しばらくみんなを頼む」

「はいマスター、お休みの間、絶対にお守りいたします」

――活動限界に達しました。

バタン。

「あっ、マスター」

「あれ……」

「殿……」

《オブロ地下第五階層》

「どういうことだ! どうなっているイブ」

「何者かがセキュリティーに侵入しています」

「なぜだ! なぜ今まで気づかなかった!」

「はいマスター、申し訳ありません。私のクローンを使って、一部のセキュリティーを上書きしたようです」

「イブのクローン? そんなもの……どうやって……俺以外の誰がそんなことをできるんだ」

「マスターが、ヘブンワールド用に作ったアダムクローンシステムが利用された可能性があります」

「あれか……くそっ、本社に残したまま完全削除する時間がなかったからな。あれが見つかったのか」

「マスター、南さんから連絡が入っています」

「南か、繋いでくれ」

「はい。お話し下さい」

「南、どうした?」

「天風さん、天風さんが消えてから、新任のリーダーとしてうちにやってきた、網代って男をご存じですか?」

「網代……どこかで聞いた気がするな、本社の奴だったかな?」

「ホワイトハッカーっと言えば分かりますか?」

「そうか、本社が外注していたセキュリティー部門の奴だな! ホワイトハッカー網代大介だ」

「その網代が、アダムクローンシステムを持ち込んで、イブのクローンを創り出し、イブを欺いてバックドアから侵入し、セキュリティーの一部を上書きしたようです」

「くそっ、やってくれるじゃないか網代め!」

「もしかして、XANAマザーのバグバスターペンギンを暴走させたのも奴か!」

「故意かは不明ですが、絡んでいるのは間違いないです。天風さんの計画を妨害するためです」

「どこまで知られているんだ……」

「中身までは知られていないと思います。とにかく妨害して天風さんのやることを阻止しようという気ですね」

「くそっ、ユーザーが犠牲になる可能性があるのにお構いなしか!」

「網代の言動を見ている限り、目的のためには手段を選ばない男です」

「どこがホワイトハッカーだよ。しかし、なんでこんな妨害をしてくるんだ。誰にも迷惑がかからない計画なのに」

「おそらく、本社は恐れたんだと思います。一部の子供たちを見捨てたことを天風さんが公にしてしまうのではないかと」

「下衆の勘ぐりだな」

「イブの管理権を早く取り戻すために、強引な手段に出たんだと思います。イブとオブロを利用して何か暴露していると勘ぐったのかもしれません」

「そうだな。口では体裁を繕ってはいるが、アストロヒューマンプロジェクトの回復率を高く見せて、世界的シェアをいち早く奪いたい。本心はそんなところだろう」

「はい。そう思います。天風さんより先に、僕も本社からイブ開発部にとばされたのは、回復率の改ざんを渋ったためですからね」

「膨大な費用がかかっているリアルデビルズ社の、今後の命運をかけている事業だからな」

「しかし、アダム開発者の天風さんまで排除しようとするとは思いませんでしたよ。しかも他社に行かないように飼い殺しにして監視付きとは」

「機密保持契約も、より不利なものに更新させられてたな」

「僕もそれありました。あっ、そういえば、今日取材があったのですが、どうも天風さんに興味があったみたいですよ」

「俺に? どこの取材だ?」

「えーっと、確か……月間メタバース? 箝口令出てたので誰も話してないと思いますけど」

「月間メタバース! XANAギルドユニオンメンバーが運営してるやつだ!」

「XANAギルド?」

「誰が来たか覚えてるか?」

「えーっと、ちょっと待ってください、たしか……名刺が……ああ、ありました。えっと、若木さん……と林さんと磨戸さんですね」

「ジャッキーさんたちか!」

「お知り合いですか?」

「その人たちと連絡は取れないか!」

「えっとー、それ自体は簡単なんですが……最近僕も怪しまれているようで、監視されてるんですよね」

「そうか、それはまずいな。南まで排除されるとそっちの情報が入らなくなる……」

「XANAギルドでしたら……そうだ、僕、XANA内の知り合いにモネモネさんという方がいます。本名は知らないですが連絡先なら知っているので、その方向から連絡取れるか探ってみましょうか?」

「そのモネモネさんって、もしかするとギルドユニオンメンバーかもしれない」

「えっ、そうなんですか! それならいけそうですね」

「うん、だが慎重に頼むよ。俺はユニオンにも疑われているかもしれない」

「分かりました。慎重にやります」

「うん、頼む。悪いな、巻き込んで」

「いえ、天風さんのためではなく、これは僕自身の正義感からやっていることです」

「うん」

「では、また連絡します」

「ああ、頼む」

「イブ、今の通話ログは全削除」

「はい、マスター」

「それで、オブロからリスポーンさせた人たちは大丈夫か?」

「はい、一名はギルドユニオン本部、その他は桟橋ポイントに出現しています。AIたちもいますので、バスターペンギンへの対処はなんとかなると思います」

「バスターペンギンたちは、まだ止められないのか?」

「XANAマザーへの浸食を、XANA側が危険と見なして防衛体制に入ってしまったので、こちらでとめる方法がありません。クローンされた私のセキュリティーシステムの一部が、故意にXANAマザーのセキュリティーにバグを振りまいていて、本物の私も同一視されています」

「では、クローンイブのセキュリティーの方を排除できないのか?」

「私にも自身のプログラムかクローンされたプログラムかの区別が困難になっています。区別できるよう対処していますが、先に攻撃されるかもしれません。つまり、ここ五階層も危険に晒されます」

「くっ……だが、まだヘブンの構築は完了していないのだよな」

「はい。既に入っていただけますし、閉じることもできますが、未完成のままなので、私との接続を遮断できません」

「すぐに発見されるということだな」

「はい、ホワイトハッカーであれば、なおさらそうなります」

「分かった。待つしかないな」

「はい」

「子供たちの様子はどうだ」

「みんな楽しそうに遊んでいます。問題ありません」

「そうか、わかった」

(著作:Jiraiya/ 編集:アヒッル)

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