Episode 24 24話「骨とちゃっちい罠」
「マスター、またどすか……」
「カエデ、私が通過したときはなかったのよ」
「えっ、そうだったのヒメミちゃん」
「マミね、今突然なんか床に出てきたの見た」
ドテッ――!
「痛ってーっ!」
後ろを振り返ると、ボタモチさんが転んでいた。
よかったぁ~、俺だけじゃないじゃん。
「全員注意して! 床下から突然何か出てくるから」
ヒメミが注意すると、全員が足元に注意を払った。
転ばせるだけのちゃっちい罠だから、被害はないけど……。
また後で発動する罠かもしれないからなあ。
だが、足元を見ている場合ではなかった。
「全体止まれ、第一列、防御態勢をとれ」
「サー、イエッサー!」
「前方から骨接近、全員警戒!」
えっ、骨?
アヒル隊長が警戒を促す。
前方の暗闇の中から近づいてきたのは、まさに骨だった。
あれはスケルトンだな。
さながら盾と剣を装備した、理科室の人体模型のようだが……大きさは、ニメートルは優にある。
「ヒメミ、それと忠臣君、前衛を頼む」
「はい、マスター」
「御意」
「アヒル隊の右に前線を作る。全員二時方向に移動」
「はい、マスター」
「御意」
ゆっきーさんたちのパーティーが前進してきた。
「じゃあ、ボタモチさん、俺たちは左に」
「了解! ユカリ、ミホ、カナちゃんと一緒に十時方向に前進。ディフェンス頼む」
「はい、キャプテン」
「了解です、キャプテン」
「リホは、トップ下、チャンスがあれば攻撃」
「はい、キャプテン」
ボタモチさんは、学生時代にサッカーをやっていて、司令塔だったそうだ。
前線は、八人での構成になった。
八人だけでは、幅三十メートルほどの前線を維持するのは難しいだろう。
特に、防御力的に武士の忠臣君がちょっと厳しい。
側面に回り込まれないか心配だ。
「カエデ、忠臣君の右からの回り込みをケアしてくれ」
「了解どすえ」
「ミサキ、前衛二人のサポート。矢は温存、薙刀で対応してくれ」
「分かりましたマスター。スキルはないですけど」
薙刀は、中距離攻撃系の武器として、射撃職でも装備が可能だった。
ただし、スキルは取得しないと使えない。
「それでいいよ、ミサキ」
「マミは、HPが四十パーセント切った者を単独ヒールしてくれ」
「マスター、ジェネシスカードは出さないの?」
「レベル上がったし、単独ヒールなら、かなり回復量あるよね?」
「うん、一回で半分ぐらいは回復できる」
「十分だよ。ジェネシスは一戦闘で三十分しか使えないから温存したいんだ」
ガッツン――!
スケルトンたちが前衛と激突した。
忠臣君以外は、盾や剣で攻撃を受け止める。
防御力が低い忠信君は、半身になって受け流し、側面から切りつける。
カラン――ゴロゴロゴロ……。
なんだ弱いぞ、こいつら……。
前衛と対峙したスケルトンたち、ずいぶん脆くないか?
こちらの攻撃を盾でかわしているスケルトンもいるが、その反応は鈍い。
二、三回攻撃を受けたスケルトンは、骨がバラバラに外れて床に転がっていく。
だが数は多く、次から次へとやってくるので、前線は押し上げるどころか、徐々に後退する。
左右に回り込まれないように警戒した結果、じりじりと入り口付近まで後退することになった。
自分のバードスキルを確認すると、照明弾がある。
「照明弾打つぞ――」
味方が驚かないように宣言してから、四十五度ほどの角度で打ち上げた。
そこで見えたものは、おぞましい光景だった。
くわっ――どんだけいるんだよ、骨!
全員が色めき立つ。
ホールの反対側まで、びっしりと白い骨の集団で埋まっていた。
しかし、全部がスケルトンではないようで、後方の骨たちは、装備が違う様に見える。
「よいたろうさん、見ましたか? 後衛の奴らは魔法系かもしれません―――」
アヒル隊長の指摘のとおりだと思った。
「スケルトン系だと、ウィザースケルトンタイプとかでしょうか……」
「今リリスに見に行かせます」
アヒル隊長は、ステルススキルを持つペットのリスをスケルトンの群れに放った。
俺もリジィーを放とうか……?
いや、予備は持っておくべきか。
出すのは今でなくてもいいと判断した。
「聴音、後方の奴らが何か音を発しました。全員注意!」
ボタモチさんが、狼犬で敵の魔法発動を感知したようだ。
紫色の光がスケルトンの後方から飛んできた。
一瞬身を伏せかけたが、こちらまでは届かない。
えっ、味方に当てるために放ったのか?
その理由はすぐに分かった。
床に散らばっていたはずのスケルトンの骨が、まるで逆再生かのように組み上がったのだ。
組み上がったスケルトンたちは、そのまま盾と剣を握り、また戦列に加わった。
まじか……死んでないじゃん。いや、元々死んでるのか。
「ダメだ、復活しやがった。オリビア! サクラ! アマテラス!」
「サー、イエッサー!」
三人のAIが反応する。
アヒル隊長が三人のAIそれぞれの前に、ウォータージェネシスを三枚セットした。
凄いなあ、アヒル隊長ウォータージェネシス三枚も持ってたのか……。
「敵後衛に氷結系攻撃!」
「サー、イエッサー!」
射手のオリビアとサクラは、放物線を描くように矢を放つ。
アマテラスは、氷結魔法を同じように放つ。
ジェネシスでより範囲が広がって、五メートル四方に氷結弾が落ちる。
ある程度効果はあるようで、後方の所々に空間が生じる。
おそらく、スケルトンかウィザースケルトンの一団が倒れたのだ。
しかし、また復活するかもしれない。
「あっ、リリスがやられた!」
「えっ、ステルスが効かない?」
「ウィザースケルトンにステルスが看破されたのかもしれません」
「それは厄介ですね」
眼前のスケルトンのステータスは確認でき、火に耐性を持っていることがわかる。
だが、後方のウィザースケルトンは、遠くて確認できない。
それを知るために、ステルススキルがあるリスのリリスを送った。
しかし、アヒル隊長のパーティー一覧から消えたことで、やられたと判断するしかない。
ウィザースケルトンたちに、どの程度のダメージを与えているのか分からないのが厄介だ。
とりあえず、ファイヤージェネシスをミサキの前に出して、矢を放たせる。
「ダメですねマスター、耐性は分かりませんが、ウィザースケルトンたち延焼はしてません」
やはり氷結の方が貫通する可能性が高いから、ウォータージェネシスを使うべきなのか……。
俺の手持ちに、ファイヤージェネシスカードは二枚ある。
ウォータージェネシスは一枚しかないので出し惜しんだ。
長期戦になることを考えると温存したいが……。
しかし、それで負けたら意味がない、どうすべきか……。
「ヒール!」
「かたじけないでござる、マミ殿」
マミは指示していた通り、四十パーセントを切った時点で忠臣君を回復させた。
五十パーセントほど回復し、九十パーセントのHPになる。
十分な回復量だ……ただマナの消費は二十パーセントほどある。
すると単独回復は五回か、マナポーションを使えばその倍はいけるか……。
前衛八人のHPを確認すると、だいたい五十パーセント程度まで削られている。
ヒメミはパラディンの自動回復があるので、まだ六十パーセントはある。
アヒル隊には、マミと同じ回復系の職種クレリックがいる。
心配なのは、ゆっきー、ボタモチパーティーだ。
彼らのパーティーには回復職がいない。
「マスター、これを見てください」
ヒメミが振り返り、自分の足元を示した。
そこには、塵になって消えていくスケルトンがいた。
えっ、完全に倒せたのか――!?
「ヒメミ、どうやったんだ!」
「アンデッドスキル、ホーリーナイトです」
そうか――!!
こいつらスケルトンはアンデッドだよな!
つまり、聖職者のスキルに弱点があるって設定が普通だ。
完全に消してしまえば、ウィザースケルトンの再生魔法でも復活しないじゃないか!
「ヒメミでかした、それ使いまくれ」
「マスター、すみません。一体ずつなので、マナがもちません」
「ああ、そうか、だめだ……この数では無理だな」
「でも、マミなら範囲スキルがあるはずです」
そうだ――! マミはクレリックじゃないか!
「マミ、ホーリーナイトを範囲で使えるか」
「はい、マスター。でも……そのままだと三体ぐらいしか」
「三体……、そのままじゃないってのは?」
「うんとね……。全種類のジェネシス使うとね……」
「使うと?」
「えっと、このホールの半分の半分ぐらいかな?」
「ってことは、四分の一も! よしやろう!」
「あとね、マミのマナがほとんどなくなるよ……」
四分の一でマナのほとんどがなくなるのか……。
ポーション使えば二度はいけるか?
あっ、そうだ――!
アヒル隊にも使ってもらえばいいんじゃないか!
「よし、やろう! マミ」
「はい、マスター」
あっ、待てよ、俺ファイヤ―ジェネシス以外は一枚ずつしか持ってないぞ……。
仕方がないか、ヒメミのメタルを一時的に外すか……。
「マスター、リムーブしてください」
ヒメミの方が先に言い出した。
「すまないヒメミ、そうさせてもらう、少し耐えてくれ」
「大丈夫です、マスター! しばらくは耐えられます」
「うん! 頼む。リムーブ――!」
ヒメミの盾に付与したメタルジェネシスを外し、全種類のジェネシスをマミの前に重ねてセットした。
「アヒル隊長!」
俺は、アヒル隊長に見て欲しかったので叫んだ。
「いきます! 死者たちに永遠の安息の夜を――ホーリーナイトスカイ!」
おっ、今、呪文っぽい言葉を言ったな。不謹慎だが、MMOみたいでワクワクするぞ!
マミの手のひらが輝き、そこから流れ星のような光がジェネシスカード五枚を通過した。
オレンジの光が虹色に変わり、天井に飛んでいく。
その光は、既に照明弾の効果が切れて、薄暗くなっていた天井付近で光り輝く。
しばらく、虹色の玉となって上空に浮遊し、輝きながら膨張していく。
パン――!
乾いた音を立てて、その玉が爆ぜた。
ホールに小さな光の玉が滝のように降り注ぐ。
直撃したスケルトン、ウィザースケルトンたちは骨片の塵となって消えていく。
二、三割のアンデッドたちが消えたようだ。
「おおーっ!」
味方の歓声が揚がる。
アヒル隊長の方を見ると、既に全種類のジェネスをセットしていた。
「いけ! レベッカ――!」
「サー、イエッサー。死者たちよ、願わくば、来世はアヒルとなりて生まれ出でよ――ホーリーナイトスカイ!」
アヒル隊のクレリック職レベッカが、マミと同じスキルを使った。
えっ、ん、同じか?
さらに、アンデッドたちが消えて半分ほどになった。
すごい、アンデッドには抜群の効果じゃん。
「マミ、これを使え」
ほとんどマナが無くなっていたマミに、一階層で手に入れたマナポーションを渡す。
マミが使うと、マナが全快になった。
再びホーリーナイトを使うと、さらにアンデッドたちが塵になる。
これで、あと残っているのは二割程度だ。
よし、残りはアヒル隊の……。
「マスター、気になることがあります!」
「なんだ、ミサキ?」
「左下に小さな数字が出ています」
俺は意識を視界の左隅に向けた。
すると、オレンジ色で数字の四が表示されている。
「これはなんだ?」
「マスターが転んだ時に、緑で一と出ました。ボタモチさんが転んだ時には、青で二と」
ヒメミも気づいていたようだ。
「さっき、アヒル隊の娘たちが二人転んでいたのを見ました」
「つまり、何かカウントされているってことか?」
「そうです、マスター。そして色が警告度合を示している気がします」
ドテッ――!
そういっている間に、アヒル隊のレベッカが転んだ。
スキル発動前に中断された。
「どうした、レベッカ……」
ボコッ!
「わっ――」
アヒル隊長が言いかけた瞬間、足元の床ブロックが四枚ほど抜け落ちた。
ボコッ!
ボコッ!
アヒル隊が次々と床の穴に落ちていく。
「全員、マスターのところに集まって!」
意味は分からなかったが、ヒメミの声でAIたちが集まった。
ボコッ!
ボコッ!
俺はセンちゃんごとマミを抱きしめる。
落ちる瞬間、ヒメミとミサキが俺に抱きついた。
怖いよ……。
怖いよ……。
怖いよ……。
暗いよ……。
暗いよ……。
怖いよ……。
どこ……。
どこ……。
(著作:Jiraiya/ 編集:オーブ&maru)
« Previous post目覚めてみたら、XANAマスターになっていた件
Episode 23 Next post »
目覚めてみたら、XANAマスターになっていた件
Episode 25