目覚めてみたら、XANAマスターになっていた件

Episode 23 23話「合鴨戦法」


ゆっきーさんとカナは、階下への扉の前で警戒。

俺とボタモチさんは、ボス部屋の入り口のドアに耳をあてる。

だが、分厚い扉に阻まれているからか、何も聞こえない。

「あっ、狼犬に聴音スキルある」

ボタモチさんの狼犬に、聴音スキルが備わっていたようだ。

スキルを発動すると飼い主にダイレクトに聞こえるらしい。

「おお、聞こえる! かなり大人数の足音だね」

やはり誰かがオブロに入ってきたようだ。

「あっ、戦闘が始まったみたいです」

「俺とゆっきーさん、かなり苦戦したからな……」

「俺らも同じです。ユニオンの増援でしょうか?」

「今、ギルド本部で動けるのはリブさんと、ヤキスギさんだけなので……」

「くそっ! バスターペンギンの襲撃ですね」

ボタモチさんが悔しそうに言った。

おそらく彼もAI秘書を失っているのだろう。

「そうなんですよ。ジショさんたちは足をやられてます」

「となると、本部も心配ですね……」

「俺は寝落ちしていて運よく無事だったんです」

「なるほど。だとすると、ほかのギルトかな……」

「そうかもしれません」

「なんとかここまでたどり着いてくれるといいのですが……」

三十分ほどすると、静かになった。

どうやら決着はついたようだ。

あとは侵入者が勝利していることを祈り、ボス部屋の扉を開けてくれるのを待つしかない。

既にクリアしているボタモチさんがいるから、ボスは再生せず、階下への扉もロックが解除されると推測している。

どのくらい待っただろうか……。

たぶん一時間程度だと思うが、永遠に来ないのではないかと、みんなが不安に感じ始めたころだった。

「何か聞こえてきた」

ボタモチさんが何かを聞き取った。

ぼっ、ぼっ、僕らはアヒル冒険団~♪

勇気りんりん、アヒル色~♪

希望に燃える、アヒル色~♪

怖いものなどあるもんか~♪

ぼっ、ぼっ、僕らはアヒル冒険団~♪

「アヒル隊長――!」

ボタモチさんが叫んだ。

「えっ、アヒル隊長なんですか?!」

「間違いないです、いつもの隊歌うたってます」

ああ、あれか……。

アヒルの行列は、一度見たら誰もが忘れないインパクトだ。

自然と動物を愛する彼は、特にアヒル愛が強い。

リアムンに特注した、アヒルアバターをいつも身に着けている。

もちろんAIたちにも装着させているのは、言うまでもない。

アヒル隊長は、主にファーム経営を生業としている。

AIたちを使った合鴨農法ならぬアヒル農法で、オーガニック食材を生産している。

農園では雑草や害虫を駆除するために、薬剤を使用するのが一般的な方法だ。

だが、大量のAI秘書を抱えているアヒル隊長は、デュエルに回す以外に農園管理もさせている。

アヒルアバターには害虫駆除と雑草処理のスキルが付いているのだ。

たくさんのAIを抱えているからこそできる農法だ。

もちろん肥料にもこだわり、化学肥料ではなく、リブさんが営む養鶏場の鶏糞を利用しているから完全有機栽培だ。

ほかの農園にアヒル隊を派遣するレンタルAIも行っている。

オーガニック食材で作られた食品は、ブーストアイテムでより高い効果を発揮するため、高額で取引されている。

しかし、行方不明のアヒル隊長がなぜここに?

 

「ぜんたーい止まれ!」

「この部屋の前まで来たようです。扉の前で停止しました」

「よかった。これで階下に下りられますね」

「戦闘隊形、第一列、ケイティ、アヴリル、リアーナ!」

「サー、イエッサー!」

「第二列、オリビア、サクラ、アマテラス!」

「サー、イエッサー!」

「第三列、レベッカ、ア……いや、俺」

「サー、イエッサー!」

「突撃準備――!」

「ヤバい、アヒル隊が突っ込んでくる!」

ボタモチさんが叫ぶ。

それはヤバい――!

「同士討ちに注意! 壁際に散開――」

「隊長、ロックはされていません、押し開きます――」

「よし、第一列が突入したら、第二列は即座に続け、レベッカは、俺のそばを離れるな」

「サー、イエッサー!」

「よし、行けーっ!」

アヒル隊と交戦にならないように、全員壁際に張り付く。

アヒル隊第一列が突入してきて、盾を構える。

第一列がじりじりと前進し、第二列もボス部屋に突入してきた。

そこでようやくアヒル隊のAIたちは、俺たちを認識した。

「隊長、ギルドメンバーの方々がいます――」

「えっ!」

アヒル隊長が飛び込んできた。

部屋内を見渡す。

「ボタモチさん、ゆっきーさん、よいたろうさんまで――! なんでこんなところに……」

いや、それはこっちのセリフなんだけどな……。

現況をよく理解していなかったアヒル隊長に、これまでの経緯を全て話した。

「ところでアヒル隊長は、なんでこんなところに?」

みんなが聞きたいであろうことを口にした。

「ああ、アンが行水したいと言い出したから、みんなで海に遊びに来たんだ」

「船持ってたんですか?」

「ああ、リアムンさんに特注したこのアバターは、行水スキル付きなんだよ」

「なるほど!」

そのスキルいいな、水着にもつけられるかも……。

ヒメミたちに作ってやるかな……。

いや、ほんの一瞬頭をよぎっただけだ。

エロい意味じゃない……たぶん。

「それでね、遊んでいたらアンがいなくなってしまってね」

「そういえば、一人足りないですね……アンちゃんって、確か第三世代でしたよね?」

「うん、そう。で、島の裏側まで探し回ったんだ。でも見つからなくてね」

「ああ、それでオブロに……」

「うん、オブロは明日オープンだから、入れるとは思ってなくて後回しになった」

「そうですよね」

「でも、来てみたら入れたから、アンももしかしたらと思ってね」

「なるほど、でも……」

「うん、とても一人で無事で済むところではないから、違うかも」

「ですよね……じゃあ別のところに」

「いや、どうかな。どっちにしても、アヒル隊も、オブロ攻略手伝います!」

「それは心強い! でも、かなり危険ですけど、いいのですか?」

「その、さっき説明で聞いたバスターペンギンというのには出会ってないけど、ここはいけそうな気がする」

「ここまで一人でというか、アヒル隊強いですよね。損害も殆どないみたいですしね」

「まあね。ということで、アンも探さなきゃいけないし、俺もユニオンメンバーだしね」

「ありがとうございます、何としてもイブまでたどり着きましょう」

 

これでオブロ攻略パーティーは三隊となった。

オブロ攻略の可能性が一気に高まった気がする。

予想通り、階下への扉のロックは解除されていた。

先頭はアヒル隊が務めることになった。

アヒル農法で鍛えた一糸乱れぬ連携は、ここでの戦いでも効果を発揮しそうだ。

まさにアヒル戦法と言っていいんじゃないだろうか。

地下第一階層のモンスターの大群に対して、AIたちが多いとはいえ、アヒル隊単独で戦って大した被害が出ていないのだから。

第二陣は、よいたろうパーティー。

最後尾は、ボス再生の危険があるので、ボタモチ・ゆっきーパーティーだ。

無事、全隊がボス部屋を出る。

パタン――!

ガチャン。

扉が自動的に閉まり、ロックがかかったような音がした。

おそらくボスが再生するのであろう。

ボス部屋に戻った場合、どうなるのかは不明だが。

今はそんなことはどうでもいい。

「マスター、何か来ます」

偵察のため、数メートル先行しているカエデが叫ぶ。

「全員警戒――!」

「大丈夫です、アヒル隊長のペットのリスでした」

ちゃんとリビールしてたのか、言うの忘れたと思ってたんだけど。

リスはステルススキルを持つ。

パーティー外では通常見えないが、カエデなら看破できる。

「アヒル隊、全員無事二階層到達。巨大な空間に、現在は敵なし――との報告」

リスは、カエデに伝達を終えると、最後尾のボタモチ・ゆっきーパーティーへ向かったようだ。

俺もぺットのリス、リジィーを偵察に出す。

「了解、カエデ。全員早足、アヒル隊に急いで合流する」

二階層に着くと、そこは予想以上の空間だった。

東京ドーム並の巨大な円形の空間のようだが、薄暗くて反対側の壁まではよく見通せない。

「うわーっ、なんだここ、巨大すぎる――!」

「これは凄い……」

ゆっきーさんとボタモチさんも到着した。

上を見上げる。

なんとなく、そこに天井があるように見える。

ただ、やはり暗くて距離感がつかめない。

一階層の通路よりは、はるかに高そうだ。

「あっ、マスターそっ……」

マミが注意しようとしてくれたが、もう遅かった。

ドタッ――!

「痛ってぇー」

何かに足がつっかかって転んだ。

ドドーン!

ドドーン!

ドドーン!

あっ、俺また何かやったかも……。

(著作:Jiraiya/ 編集:アヒッル)

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