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[Chapters:] Chapter 3

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目覚めてみたら、XANAマスターになっていた件

目覚めてみたら、XANAマスターになっていた件

第3章
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Episode 25 25話「与えられる自由と奪われる自由」
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by (JIRAIYA:著)
暗いよ……暗いよ、ママ、ママ。 ママ―どこ、どこー……。 怖いよ、怖いよー、ママ、ママ、ママ……。   ――三年前のあるマンションの一室。 ある男とフィアンセがそこにいた。 その男は天風好一という三十歳代のAIエンジニアだ。 「どうしたんだ美幸?」 看護師の美幸は、その日やけに落ち込んでいた。 「うん……、今日ね、うちの病院に交通事故にあった、六歳の女の子とお母さんが運ばれてきたんだけど……」 そこで言葉に詰まった美幸に、天風が助け舟を出す。 「ひどい事故だったのか?」 「うん、二人とも命は取り留めたんだけど、女の子はほぼ全身が麻痺、おまけに目も喉もやられてて……鼓膜もやられてて」 「そっ、それは酷い……お母さんは?」 「お母さんは意識不明で、おそらく回復は難しいと思う……」 「そうか……」 「その子がね、出ない声を必死に振り絞って、ほとんど声になっていないんだけどね……」 「うん」…

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第3章
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Episode 26 26話「活動限界」
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by (JIRAIYA:著)
怖い……ママ……。 暗い……ママ……どこ? 真っ暗闇だ。 少し意識が飛んでいたようだ。 もさもさの毛の感覚……。 ――そうか、センちゃん。 自分が掴んでいるのが、セントバーナードのセンちゃんだと気づく。 マミは……? みんなは……? 明かり、そうだ、明かりが必要だ。 バードスキルに明かり……そう思考しただけで、トーチというスキルが浮かぶ。 ピカッ――。 くっ、眩しい……。 すぐにスキルが発動した。 「マスター!」 ほぼ、同時に聞こえた声は、ヒメミとミサキだった。 眩しくて目を開けられず、慣れるまでに数十秒かかる。 あたりの様子が確認できるようになると、すぐそばにマミが横たわっているのに気がついた。…

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第3章
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Episode 27 27話「膝枕と全滅」
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by (JIRAIYA:著)
ん? 活動限界ってなんだよ、エバかよ……。 なんだかヤバい、身体が動かない……。 金縛りってやつか――。 「マスター、マスター、どうしたんですか――!」 ああ、ヒメミ、俺、急に身体が動かなくなって……。 「マミ、マスターはどうなったの?」 ヒメミの声がくぐもって聞こえる。 あれ、俺の声が届いてないのか……なんか水中にいるような感覚だ……。 「えっと……えっと……」 「クレリックのスキルで状態異常とか、わかるよね?」 「診断視スキル発動! ……あの、マスターはたぶん寝てるだけ……」 「寝てる?」 「うん、毒とか呪いとかデバフとか、そういうのじゃないよ」 「ほっ、そうなのね。ただの睡眠。よかった」 ヒメミは安心したようだが、ミサキはまだ不安なようだ。 「じゃあ、今朝のように、六時になったら起こせばいいのかな?」 「そうねミサキ、そうしましょう」 あれ、俺リアルではまだ寝てるんだよな……。…

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第3章
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Episode 28 28話「初のボス戦と判断ミス」
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by (JIRAIYA:著)
「マスター、AIパネルとフレンドリストパネルを確認してください」 そうだ! 生き残っていればそれで分かるじゃないか。 意識をAI秘書管理パネルに集中させる。 プン――。 すぐにポップアップが浮かび、ほっとする。 カエデも忠臣君も健在だ。 その証拠は、名前が白くはっきりしているということだ。 消滅したりオブロ内にいなければ、薄いグレーのはずだ。 だが、もちろん通信はできないし、ステータスも表示されない。 フレンドリストパネルをギルトユニオンの絞り込みで意識する。 プン――。 こちらのパネルも、ゆっきーさん、ボタモチさん……あっ! ダブルティムさん、たもつさんもいるじゃんか! どうやらオブロ内にいるようだ。 もちろん場所と状態は分からない。 ボタモチさんのように捕らわれている可能性もある。 「ヒメミ、大丈夫だ、全員オブロで生きていることは確かだ」 「はい、私も確認しています」…

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第3章
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Episode 29 29話「全力ハグ」
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by (JIRAIYA:著)
「マスター、ヒメミちゃんが――!」 決断に迷っていた俺に、マミが叫ぶ。 ヒメミがガーゴイルの右足に盾を掴まれて、三十センチほど持ち上げられていた。 マナがあれば、盾スキルのノックバックで容易に防ぐことができたはずだ……。 「マミ、ミサキにマナポーション! ミサキ、すまないがもう一度一斉射頼む」 「えっ、マスターそれはダメ!」 ヒメミが叫ぶ! 「早くしろマミ、ミサキは俺が守る!」 マミは慌ててミサキにマナポーションを飲ませる。 「リセット、ウォータージェネシス」 ミサキのいる位置にウォータージェネシスをセットし直す。 「撃ちます、マスター!」 「――だめミサキ、マスター!」 「俺を信じろ!」 ビュッ! 既に二メートルほどヒメミを持ち上げていたガーゴイルの背中に、氷結の矢が突き刺さる。 ――グゲェー! ガシャン。…

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第3章
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Episode 30 30話「イブに支配される者と屍」
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by (JIRAIYA:著)
「ふう、危なかったな……」 「マスター……注意してください!」 「ん? なんだヒメミ」 「まだボス部屋をクリアできていないかもしれません」 「えっ!」 確かに入り口も出口も、ドアのロックが解除された音はしていない。 そういえば、階層クリアの情報も全く表示されていない……。 「レベルアップもしていないです」 「まさか、あいつボスじゃなかったのか……」 「わかりません。マミ、何かわかる?」 「うんと……」 ガッガガガー。 全員ビクッとして、音のしたほうを見ると、壁が開き鉄格子のついた部屋が現れた。 「――よいたろうさん!」 「――おお! よいたろうさんだ!」 「えっ!」 たもつさんとダブルティムさんが、その中にいた。 「お二人とも、なんで鉄格子の中にいるんですか?!」…

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第3章
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Episode 34 34話「ずっと一緒にいたい」
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by (JIRAIYA:著)
「ちょっとマミ、バグッテるんじゃないの。自分がAIだって認識すらなくなったの!」 「だって本当だもん。マミ嘘なんて言わないもん」 「えっと、マミ、ごめん。俺、理解できてない」 「マスタぁマミね、ほんとの名前は、ヒカリっていうの、今も病院のベットの上」 「まってまってマミ、あなた、イブをマザーとした第三世代AIでしょ。もしかして人間って設定がされているとか?」 「違う、マミほんとに人間だもん。体が動かないだけで、生きてるもん、人間だもん」 「ヒカリ……」 どこかで聞いたような……名前、どこだ……誰に聞いた……。 俺は記憶の中を探る。 病院、ベッド、体が動かない……はっ! そうだ――ミサ、妹のミサの話に出てきた子じゃないのか?   「お兄ちゃん、見て――」 病室の扉を開けるやいなや、ミサが満面の笑みで言った。 「ん?」 ミサはベッドの上で足をゆっくりバタつかせた。 「えーっ、えええええー!」 「ずごいでしょう、足動くようになったんよ」…

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第3章
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Episode 33 33話「感謝と自責とママ」
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by (JIRAIYA:著)
「スキル、一斉射――!」 ミサキが放った三本の火矢が、ミノタウルスの胴体を穿った。 グォー! ミノタウルスは怒号を上げて、散るかに見えたが、数ミリのHPを残していた。 ――くそ、まだ生きてんのかよ! 「挑発――!」 ヒメミがミノタウルスの敵意を、自分の方へ向けさせる。 そして俺に攻撃範囲が及ばない角度まで、サイドステップでミノタウルスを誘導する。 だめだ、このままじゃヒメミが持たない。 くそっ、あと一撃、あと一撃あれば……。 「マスター、オートマナリチャージをかけてください!」 ミサキが要求してきた。 俺の最後のマナで、オートマナリチャージ1回分はかけられる。 しかし、オートマナリチャージでは、一斉射が打てるまで、マナをためるには時間がかかりすぎる。 「マスター、早く! ミサキの言う通りに」 ヒメミにも急かされ、俺は何も考えずにスキルを発動した。 「オートマナリチャージ――!」 もう俺に残された策はない。…

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第3章
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Episode 35 35話「再会とヘブンワールド」
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by (JIRAIYA:著)
ボス部屋の入口扉が開く。 全員が身構える。 だが、何も入ってこない。 なんだ? タッタッタッタッタッタ……。 「マスター注意してください! 何かステルス状態のものが来ます!」 ドカッ。 「うわっわわわわ」 突然何かに体当たりされた……。 いや、抱きつかれた? 「えっ……」 「マスタァ、マスタァ、マスタァ――!」 「カッ、カエデか!」 「えっ、カエデ? 一体どこから湧いたの」 「ちょい、人を虫みたいに言わんといてや!」 「ええっー、カエデなの?」 「カエデちゃん?」 「殿! ご無事でなりよりでござる!」…

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第3章
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Episode 36 36話「遊園地と乃木丘三十八」
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by (JIRAIYA:著)
「キャーアァァァァァ――!」 うぐっ――ヤバ、これ思っていた以上に怖いじゃん! 自分のランドにXANAビルダーで作った遊園地のジェットコースターだ。 マミが遊びたいというから、一緒にコースを設計して設置した。 俺はパソコン上で製作しただけで、VRゴーグルで体験したのは初めてだった。 特に八十度のキリモミ落下は、おしりがムズムズして心臓が痒くなった。 「ねえマスター! もう一回、もう一回!」 「えっ……」 俺は一回で充分だったが、マミは相当気に入ったらしく、五回も乗る羽目になった。 六回目はさすがに無理だったので、ヒメミを呼んで代わってもらった。 その間、俺はXANAからログアウトして一時間ほど休息した。 「マスター、勘弁してください。十回も乗せられたんですよ。さすがにもうスタミナ切れです」 そうか……ジェットコースターでスタミナって減るのか。 「あはっ……ヒメミすまん。そうだマミ、お化け屋敷はどうだ?」 「お化け屋敷……。うーん、うーん……マスターとだったらどこでもいい」 「そっ、そっか、じゃあ行こう」 ふう、助かった、もうジェットコースター系は勘弁だからなあ。 「あの、マスター……」…

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第3章
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Episode 37 37話「黒ペンギン」
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by (JIRAIYA:著)
俺が目を覚ました時には、全員のステータスは完全に回復していた。 アイテムBOXからセンちゃんを出して、マミを乗せてやる。 ボス部屋の出口扉を開き、地下第四階層へ向かう通路に出た。 三メートルほど行くと、十畳ほどの部屋がある。 部屋の十二時方向には、幅二メートルほどの通路が続いている。 おそらくここが、オブロ正式オープン後に、四階層のリスポーン地点になるのだろう。 あれ? 確かもうオブロに入ってから三日目のはずだ?! だったら昨日、オブロはオープンしているんじゃないか? いや、オープン後も一週間はトライアルバージョン……だったか。 「ヒメミ、オブロって昨日オープン日だったよな?」 「はい、でもその気配は無いですね。どうなのマミ?」 「うん、まだオープンされてないみたい」 「そうか……まあ、たいした違いはないか」 「今、オブロは誰でも入れる状態になってましたしね」 「よし、じゃあバフをかける……おっ、オートマナリチャージがレベルアップでパーティー対象になってる」 「それはいいですね! 回復量も上がってませんか? 私のパッシブスキルはHP自動回復量が上がってます」 「おおっ、そうか。おっ確かに、オートマナリチャージの回復スピードが倍になってるな!」 「今までより、マナ切れの心配が緩和されますね」…

目覚めてみたら、XANAマスターになっていた件

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第3章
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Episode 38 38話「退路とパパ」
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by (JIRAIYA:著)
カエデをステルス状態で廃墟に入らせたが、数分で戻ってきた。 「マスター、今なら入り口付近に黒ペンギンいてはりまへん」 「そうか、全員入るぞ、音を立てるな。なるべく声も出すな、返事はアイコンタクトだ」 まだ扉の前だが、全員アイコンタクトで応えた。 全て頭の中の出来事と分かっている。 音声とデジタル通信の違いは、おそらく無いだろうと考える。 それでも念には念を入れた。 「二時方向に、三階建ての廃墟があるんや。その屋上は塀に囲まれてて狙撃には最適どす」 「そうか、ではカエデを先頭に、ヒメミ、忠臣君、ミサキ、マミ、俺の一列縦隊で行く」 カエデがゆっくりと、そして静かに両開き扉の右側だけを開く。 そこにあったのは、まさしく市街戦跡の建物と道路だった。 弾痕のようなものが、コンクリートの壁のあちらこちらにある。 どの建物も扉はなく、壁も所々に穴が空いている。 窓にはガラスはなく、屋根が崩れているものもある。 初めからこういう設定なのかもしれない。 カエデのあとをついていくと、外階段付きの三階建ての廃墟があった。 外階段を上り、屋上に出ると、四方が一メートルほどのコンクリート塀に囲まれていた。 所々に穴が空いているが、それが覗き穴にちょうどいい。…

目覚めてみたら、XANAマスターになっていた件

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第3章
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Episode 40 40話「抱っこされて今凄い幸せ」
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by (JIRAIYA:著)
「マスター!」 ヒメミが俺のアバターを引っ張って倒してくれたが、遅かった。 幻惑で同士討ちを始めた赤ペンギンたちは、こちらに向けても撃ってきたのだ。 俺の額に穴が開いてしまった。 「ダメでしょマスター、すぐ伏せないと!」 「すっ、すまん、つい確認したくて……」 これがリアルなら死んでいるが、全然痛くもかゆくもないし、血も出てはいない。 「黒ペンギンの弾創よりも小さいな……」 「それでも三パーセントのデータ損傷を受けてます! もっと危機感持ってください!」 「すっ、すまない……」 「今度からはすぐ退避! いいですねマスター!」 ヒメミが今までにない剣幕だったので、ちょっとたじろぐ。 「あっ、ああ、分かったヒメミ」 まるで心配をかけた子供を母親が叱っているような物言いだ。 俺にも母親がいたら、こんな感じなのかな……。 母がいなかった俺には、じわっと胸が温かくなる。 ヒメミは時に、母のように、恋人のように、妻のように寄り添ってくれる。 自分にとってかけがえのない存在になっていることを改めて実感する。…
ko_KR