帰るべき場所
帰るべき場所
Chapter 1
/ Episode 1 1話「仮想と肉体のハザマより」
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ソフィア:ワークモード起動。管理人No.3709 XANA共通時間 AM10:00 より、肉体へ意識が移行します。安全な場所にて、待機してください。移行まで残り5分です。 私は、部屋のロックを確認し、椅子に座った。 ソフィアはよく通る声で続ける。 ソフィア:残り3分です。 毎日のことだが、意識移行前のこの時間をどうにも持て余してしまう。考えなくても良いことを考えてしまう前に、頭の体操がてら、この世界の始まりから現在までを、頭に描くことで毎日時間を潰している。 昨日は20XX年で終わっていたから、今日はその続きからだ。 人口の爆発により、世界に人間が動き回れる土地が無くなった時代。 研究者達は、肉体を小さな箱に収め現実世界へ置き、意識のみ仮想空間へ送ることを考え出した。 幸い、技術の進歩により、実現は容易だった。 個人の空間など持てなかった人々にとって、仮想空間の無限の広さは、何よりの宝だったという。 生活の基盤は次々に仮想空間へ移され、資産の電子化、企業の仮想空間への移行、見た目が容易く変えられる世界での個人の識別方法の確立…全てが仮想空間へと移され、現実世界は肉体の倉庫となった。 人々は、新しい世界に名前を付けた。 『XANA』 今、私が生きる世界。 ソフィア:肉体への意識の移行が完了しました。健康状態の診断を開始します。横になったまま、動かないでください。 ピピっという機械音と共に、わずかな振動が体に伝わる。もう慣れたが、最初の頃は怖くて仕方なかった感覚だ。…